労働者同士で仕事を分け合う「ワークシェアリング」。働き方改革が進む昨今、雇用機会の創出や適切な労働時間の配分を目指すものとして、国としても推奨している取り組みのひとつです。 では、ワークシェアリングを導入することで企業や従業員にはどのようなメリットがあるのでしょうか?この記事では「ワークシェアリングとは何か?」という概要やメリット・デメリット、そして導入事例、導入方法まで詳しく説明します。
ワークシェアリングとは、1人で行っていた仕事を複数人で分け合うことです。
厚生労働省が発表した資料によると以下のように定義づけられています。
“ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味する。”
【引用】「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」厚生労働省発表/平成13年(2001年)
つまり、一定量の仕事を複数人で分けることで1人あたりの労働時間を短縮させ、雇用の機会を生むことができる、という考え方です。
ワークシェアリングは、日本よりも先に海外で導入され雇用動向の改善が認められています。なかでも、1980年代に、「オランダ病」とも形容された経済危機にあったオランダの取り組みは、ワークシェアリングが大きな成果をもたらした代表的な事例として知られています。
オランダでは、1982年に政府、労働者団体(労働組合)、企業(経団連)の三者の間で締結された「ワッセナー合意」に基づいてワークシェアリングが推進されました。この合意により、労働者団体は賃金抑制に協力し、企業は雇用の確保や勤務時間の短縮に努力する一方で、実質的な雇用者所得の減少を緩和するため政府は減税などの施策を実施。これらの取り組みにより経済危機を克服し、1983年には11.9%であった失業率を2001年には2.7%にまで低下させることに成功しました。
今では“ワークライフバランス先進国”と称されることもあるオランダでは、以降も正規社員と非正規社員の格差を埋める「同一労働・同一賃金」や労働者が自分の勤務時間を短縮・延長する権利を認める「労働時間調整法」が制定されるなど、柔軟性の高いフレキシブルな働き方を実践しています。
オランダの事例に見られるように、ワークシェアリングによって得られる効果として、失業者の雇用問題だけでなく、長時間労働の緩和やフルタイム以外の多様な働き方の機会創出、離職率の軽減などが期待できます。
ワークシェアリングは、その目的別に主に4つの種類に分けられます。
雇用創出型
失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与えるというものです。
多様就業対応型
フレックスタイム制度や在宅ワーク、パートタイム勤務を導入するなど働き方を多様化し、これまで育児や介護などといった個人の事情により、既存の勤務形態では働くことが難しかった多くの労働者に雇用機会を与えるというものです。
雇用維持型(緊急避難型)
一時的な景況の悪化や生産量の変動を乗り越えるため、緊急避難措置として、労働者1人あたりの既存の所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持するというものです。
雇用維持型(中高年対策型)
中高年層の従業員を対象に1人あたりの所定内労働時間を短縮することで、中高年層の雇用を確保することができるというものです。高齢化社会を迎えている日本においては、中高年層の雇用は重要課題のひとつと考えられています。
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ここからは、ワークシェアリングを導入することによって、企業や実際に働くメンバーにはどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
複数の人数で業務をシェアすることで個人の業務負担を軽減することができます。無理のないスタイルで働くことができるため、メンバー個々のワークライフバランスを尊重しやすくなります。
プライベートの時間の充実やスキルアップのために学ぶ時間など、自分のために使える時間が増えることで、メンバーの仕事に対するモチベーションの維持・向上も期待できます。
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時間や心にゆとりをもって集中して業務に取り組めるため、1人1人の生産性の向上が期待できるほか、複数人で仕事を分け合うため、これまでよりも納期を早められることもあるでしょう。
また、空いた時間を使って業務改善に取り組むことで、より業務を効率化することもできるかもしれません。
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時短勤務や在宅ワークなどの新しい働き方を導入することで、これまで通りの働き方をするのが困難であるという理由でのメンバーの離職を留めることができる可能性があります。
長く働ける環境を整えることで、経験を積んだメンバーの知見を活かした強い組織づくりに役立つでしょう。
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一方でワークシェアリングの導入により、デメリット・懸念点があることも知っておきましょう。導入にあたっては、デメリット解消のために起こりうるリスクの回避策について事前に十分に検討しておく必要があります。
多数のメンバーが業務に携わるようになることで、引継ぎや情報管理、業務品質の均等化のために、結果として業務工数が増加してしまう可能性があります。また、メンバーによっては「1人で完結していたときよりも仕事がやりにくい」と感じモチベーションが下がってしまうということもあるようです。
引継ぎや仕事のやり方をメンバー同士に任せるのではなく、事前に既存の業務をどのように分担するかの運用フローをしっかり検討しておきましょう。
労働時間が短縮されることで、例えば時間給のメンバーは給与が下がってしまうというような影響が考えられます。「もっと長時間働いて稼ぎたい」という人にとっては不満や離職につながる可能性もあります。
スキルアップのための研修費用の負担や副業を許可するなど、メンバーの反発を生まないような対策についても併せて検討するようにしましょう。
新たに人員を雇う場合、給与や保険などの保障対象が増えるため、企業としての支出が増える懸念があります。結果として生産コストが増加してしまい企業が苦しい状態にならないために、導入の時期や人員の人数などは綿密に計画することが重要です。
ここからはワークシェアリングを導入した、日本国内の企業の取り組みを紹介します。
I社は、育児・介護・自己啓発など私生活の充実を求める社員が、仕事と生活の調和を図れるよう支援する短時間勤務制度を導入した。週あたりの勤務時間を8割または6割に短縮する仕組みで、1日の勤務時間を短縮する方法と週あたりの出勤日数を4日または3日とする方法があり、申請理由には原則として制限はない。
また、同社では、従来から在宅勤務制度を導入している。これも事由の制限や在宅勤務割合の規定はない。柔軟な勤務形態の採用で社員の多様な要望に応え、高度な知識や経験をもつプロフェッショナルな人材集団を目指す取組みである。
E社は、工場の稼働日を増やし生産性と売上・利益をあげるため、土日に勤務する60歳以上高齢者を新たに雇い入れることにより、従来休日であった年間110日の工場稼動を実現した。
高齢パート社員の活用により人件費の圧縮を図りながら工場の稼働率をあげて低コスト化を進め、顧客の要求に柔軟に対応する「年中無休のコンビニエンスファクトリー」をめざす取組みである。
K社では、パートタイマーと正社員の垣根を取り払い、「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針にやる気と実力次第では店舗の幹部になる道を開くといったパートタイマーを重用する人事制度改革に乗り出している。
経営成果に結びつく柔軟な人材配置を可能にするため、正社員とパートタイマーの雇用区分をなくし、全ての従業員が契約で結ばれる新しい契約区分制度を導入した。
【引用】「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集及びリーフレットについて」厚生労働省発表/平成16年(2004年)より一部抜粋▶︎welldayなら、AIが従業員の働きがいとストレスレベルを週次で可視化
前項で紹介したようなワークシェアリングを導入する場合には、人事・労務について熟知した専門的な知識が必要となります。
ここでは、すぐに新たな人員を雇用したり人事制度と変更したりといった大掛かりな改革をしない場合にも、自組織内でのワークシェアリングに活かせるよう、ワークシェアリングの基本となる3つの導入ステップを紹介します。
まずは自組織の現状をしっかりと把握することが大切です。何人のメンバーがどのような方法でどれくらいの時間をかけて何の業務を行っているのかを“見える化”しましょう。
▶︎見える化とは?組織の業務改善・環境づくりのために取り組むべきこと
現状を把握できたら、次は業務の中で無駄な作業・不要な業務がないかを見直します。時間がかかっている業務で効率化できるものがあればやり方を変える、不要な仕事はなくすなどの業務整理をします。
次にワークシェアリングが可能な業務や職種を検討します。例えば、どうしても時間を要する仕事は何か、専門的な知識や経験を要さずに比較的分業しやすい業務は何か、といった視点で考えてみましょう。
ワークシェアリングが可能な業務・職種があれば、導入後にどのようにして仕事の分担をするのか、具体的な実施方法を決めて業務マニュアルを作るなど、事前準備を進めます。人によって業務の差分が起こることのないように、既存の仕事だからと油断せずに事前準備はしっかり行うようにしましょう。
メンバーのやる気の低下につなげないために、導入前後のメンバーマネジメントも重要なカギとなります。単に仕事を減らすということではなく、「ワークシェアリングを導入することで何が実現できるのか」「組織やメンバーにとってどんなメリットがあるのか」を明確に伝えると良いでしょう。
また、導入後に定期的にメンバーにやりづらいことがないかのヒアリングを行い、必要に応じて業務内容を見直すなど、安定した運用に乗るまでは業務の進捗状況を確認するようにしましょう。
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この記事で紹介したいくつかの事例にあるように、ワークシェアリングを実施するための方法もそれにより実現できることも実に様々です。
先行してワークシェアリングを進めている欧米諸国に比べると、日本の導入事例は多くはありませんが、「働き方改革」が進む日本においても、政府主導のもと企業へのワークシェアリングの導入が促進されるなど、注目を集めています。
ワークシェアリングは、雇用機会の創出を主な目的としたものですが、ハードワークの緩和や職場環境の改善、業務の効率化など組織の課題解決にも活用することができます。メリット・デメリットを理解し、うまく取り入れることで組織の環境改善や生産性の向上に役立てていきましょう。
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