ワーク・エンゲージメントとは、仕事に関して肯定的で充実した心理状態を表します。ネガティブな要因に着眼することが多かった従来の心理学に対して、ポジティブな要因に光を当てるポジティブ心理学で提唱された概念の一つが、この「ワーク・エンゲージメント」です。ワーク・エンゲージメントが高い状態の従業員はパフォーマンスが上がり、個人の幸福感も上がるといった理由から多くの企業で注目されています。この記事ではワーク・エンゲージメントの概念の解説から向上の方法などご紹介するのでぜひ最後までご覧ください。
【主なトピック】
【こんな方におすすめ】
ワーク・エンゲージメント(Work Engagement)とはバーンアウトの研究で有名なユトレヒト大学ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)教授により、以下のように定義づけられています。
“ワークエンゲージメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。エンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である”
エンゲージメントについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
上記のように、ワーク・エンゲージメントは3つの要素から構成されています。
要するに、ワーク・エンゲージメントが高い人は「仕事を楽しみながら積極的に取り組み、エネルギーに満ち溢れ、集中している」状態にあると言えます。
なお、エンゲージメントにおける没頭は継続性を重視します。派生元に「フロー状態」の概念がありますが、フローが短期的な没入を意味するのに対し、エンゲージメントの没頭は長期的な日々の没頭を意味します。
ワーク・エンゲージメントは関連する概念を「活動水準」と「仕事への態度・認知」の2つの軸に分け、以下のように整理できます。
ワーク・エンゲージメント:仕事に対するマインドセットが肯定的で、かつ高い活動水準で働けている状態です。バーンアウト(燃え尽き)はこれの対極の概念として位置づけられています。
リラックス(職務満足感):仕事や職場のことは好きだが、実際の業務活動は低い水準に位置する状態です。これは、会社のビジョンなどに共感しており、「仕事への態度・認知」は高いが、仕事をしている時に没頭している訳ではないため「活動水準」が低い状態にあります。
ワーカホリズム:高い水準で活動しているが、「なんとかして終わらさなければいけない」など後ろ向きな動機やそもそも仕事のやりがいについて考える余裕がない状態を表します。ワーク・エンゲージメントは「I want to work」で言い表せるのに対して、ワーカホリズムは「I have to work」で説明できます。
バーンアウト(燃え尽き):仕事に対してエネルギーを使いすぎたあまり、不満感・疲労感で社会的活動を停止し、意欲を喪失してしまう状態です。ワーク・エンゲージメントの対極の概念として認知されています。
他にも、ワーク・エンゲージメントには「ワーク・モチベーション」や「組織コミットメント」などの類似の概念が存在します。厚生労働省がわかりやすく整理した表があるので是非参考にしてみてください。
ワーク・エンゲージメントの概念について解説しましたが、どのように計測するのか気になった方もいるかと思います。ここでは、ワーク・エンゲージメントの測定の尺度として信頼性が確認されている方法3種類をご紹介いたします。
UWESとはワーク・エンゲージメントを測る際最も使用されている尺度で、オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリらによって開発されました。この尺度は前述した活力・熱意・没頭を 17 項目にわけて測定しており、日本を含む23カ国で標準化・利用されています。その他にもUWESでは短縮版(合計9項目の質問で測定)、超短縮版(合計3項目の質問で測定)も開発されています。
MBI-GS測定では、UWESのようにワーク・エンゲージメント自体を測定するわけではありませんが、対極の概念とされているバーンアウトを測定します。MBIはExhaustion (疲弊感)、Cynicism (シニシズム:仕事そのものから距離を置く無関心な態度)、Professional Efficacy (職務効力感) の3つの概念からなる尺度です。
こちらもMBI-GSと同様に、バーンアウトについて調査します。「疲弊」と「離脱」の2因子で構成されている調査であるため、結果が低いほうがワーク・エンゲージメントが高くなることになります。
以上の3種類の尺度がワーク・エンゲージメントを測る際に使用されます。 組織サーベイについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
さて、ここまでワーク・エンゲージメントの概念や測定尺度について解説してきました。ここでは実際にワーク・エンゲージメントを高めることで得られる効果について調査結果をもとにご紹介します。
島津明人氏はワーク・エンゲージメントの概念を提唱したウィルマー・B・シャウフェリに学び、日本でワーク・エンゲージメントをいち早く研究し始めた人物です。
同氏は自身の論文で、ワーク・エンゲージメントが「心身の健康」、「仕事や組織に対するポジティブな態度」、「仕事のパフォーマンス」と関連していることが検討されていると述べ、それにまつわるメタ分析の結果を明らかにしました。
例えば、ワーク・エンゲージメントが高い従業員は睡眠の質が良質であったり、職務満足感や組織へのコミットメントが高く離職意思が低かったりすることが示されています。他にも、自己啓発学習や役割以外の行動に積極的であったりと、ワーク・エンゲージメントが高いことはパフォーマンスにも繋がることが明らかにされています。
2019年にリクルートマネジメントソリューションズが実施した調査では、ワーク・エンゲージメントの「個人の幸福感」、「組織や仕事への適応感」、「離職意向」との関係性が実証されました。
この調査では社員に対して「毎日の活動を楽しんでいる」「有意義な生活を送っている」など個人の幸福感にまつわる質問、「高い業績をあげている」「他社でも通用する専門性が身についている」など組織や仕事への適応感にまつわる質問、「今の職場をやめたい」など離職意向にまつわる質問をした結果、3つすべてにおいてワーク・エンゲージメントとの関係性が確認できました。
「個人の幸福感」とエンゲージメントに相関関係があるのはウェルビーイングの構成要素「PERMA」の一つにエンゲージメントが含まれている点で頷けます。
ウェルビーイングを構成する5つの要素「PERMA」についてさらに詳しく知りたいという方はこちらの記事を参照してください。
2つの調査の内容をまとめると、ワーク・エンゲージメントを高めることのメリットは以下のようにあげられます。
次の章では、ワーク・エンゲージメントを高めるために理解する必要がある2つの概念について解説していきます。
では、ワーク・エンゲージメントを高めるにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、ワーク・エンゲージメントを高める手がかりとなる、規定要因の「個人資源」と「仕事資源」をご紹介いたします。
仕事の資源とは組織において目標達成に向けて必要な要素で、以下のような資源が当てはまります。
これらの資源を高めるには職場メンバーで「参加型討議」を行いより良い職場を目指したり、組織のメンバー同士で敬意をもって接するような関係性の構築を目指す「CREW (Civility, Respect, and Engagement in the Workplace) プログラム」を実施するのが有効的だと言われています。
例えば「CREW」プログラムでは対話を積み重ねてお互いを理解するセッションがいくつも組まれております。セッションでは特定のテーマが決まっているわけではないのですが、以下のようなトピックで話し合うことで、①お互いを知る→②敬意・尊敬について考える→③今後の職場を考えることができます。
従業員がお互いを理解し敬意・尊敬について考える機会に繋がるので信頼関係が結ばれ、風土の良い組織へと発展していきます。
ご興味がございましたらこちらのリンクからマニュアルをご覧できますのでぜひご確認ください。
個人の資源とは自身のモチベーションを高く保つために必要な要素で、以下のような資源が当てはまります。
では、具体的にどのような取り組みがワーク・エンゲージメントの向上に繋がるのでしょうか。
厚生労働省は個人がやりがいを感じるよう自ら働き方を工夫する「ジョブ・クラフティング」の研修プログラムを推奨しています。このプログラムでは①仕事のやり方 ②周りとの関わり方 ③考え方を工夫することで従業員が生き生きと働けることを目指しています。この研修では以下のような具体的な事例も紹介しています。
ジョブ・クラフティングでは上記のような具体的な事例の紹介などを通して従業員の仕事への活力や心理的なストレスの低下を目指します。
ご興味がございましたらこちらのリンクからマニュアルをご覧できますのでぜひご確認ください。
【離職防止・組織改善の参考資料のご紹介】
⇒「wellday」の従業員のエンゲージメント予測で組織改善を実現できた企業事例はこちらからダウンロードできます。
ここでは、ワーク・エンゲージメントについて体系的に学ぶ際便利な本をご紹介いたします。
本書は、先に述べた、島津明人氏がワーク・エンゲージメントについて初心者向けにまとめた一冊となっています。日本の就業状況をふまえてワーク・エンゲージメントについてわかりやすく説明しているのでメンタルヘルス担当者や管理職だけでなく、一般の従業員にもおすすめの本となっております。
こちらはワーク・エンゲージメントの提唱者であるオランダのシャウフェリ教授の著書で、その本質や作用、実践方法を事例を通して理解する際役立ちます。ワーク・エンゲージメントを高めるために従業員ができることと組織ができること、それぞれ紹介しているので網羅的に学ぶことができる一冊となっております。
上記のお悩みがある方は、welldayの導入がおすすめです。
welldayはslackやTeamsのデータからAIで従業員エンゲージメントの最大化を実現。従業員のコンディションを可視化して、早く・正しく組織の不調を改善するエンプロイーサクセスプラットフォームです。
▶︎まずは気軽にこちらからお問い合わせするか資料をダウンロードできます。
弊社が提供するサービス「wellday」ではSlackやTeamsといったチャットツールから従業員のワーク・エンゲージメントおよびストレスマネジメントスコアを算出することができます。過去に行ったアンケートの回答結果と回答した従業員のSlack・Teamsの行動データを組み合わせ、AIでパターン認識をすることによって計測の実現を可能にしています。
これによりサーベイ頻度を最適化することができ、従業員のよりリアルなコンディションを把握することが可能になりました。welldayでは従来のサーベイが抱えていた「設計難度」「回答の信憑性」「回答時間」などの問題を一律で解決することができます。
welldayの価値は、コンディションの可視化だけではありません。welldayではワーク・エンゲージメントが著しく低下した従業員に対して課題特定サーベイを送ることが可能なのでスコア低下の原因を詳細に特定することができます。
さらには企業のエンゲージメント向上事例やドキュメントなどをまとめた解決策コンテンツも用意しているので従業員のスコアが低下した際、課題に直結したサポートを提供することができます。
もし少しでもご興味がございましたら気軽にお問い合わせください。弊社のメンバーがわかりやすくサービスのご説明をいたします。
以上、ワーク・エンゲージメントの意味の説明や向上するメリット、向上方法などを解説しました。この記事が、生き生きと仕事に取り組み、エネルギーに満ち溢れ、集中した従業員が集まる組織の構築の一助になれば幸いです。
【参照元】 島津 明人(2015) 「ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化」http://www.jsomt.jp/journal/pdf/063040205.pdf
【参照元】厚生労働省「ワーク・エンゲイジメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について」https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_01.pdf
【参照元】リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「ワーク・エンゲージメントを高める」https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/pdf/j202002/m57_all.pdf
【参照サイト】リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「一般社員624名に聞く、ワーク・エンゲージメントの実態」https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000842/
【参照サイト】島津明人「労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究 」https://hp3.jp/project/php