ここ最近よく聞くようになったタレントマネジメントという言葉はどのような意味なのでしょうか?この記事ではタレントマネジメントの定義とその具体的なメソッドをご提案します。
【主なトピック】
【こんな方におすすめ】
「タレントマネジメント」という言葉はマッキンゼーアンド・カンパニーの報告書である 「The War for Talent」(2001)の中で言及されアメリカで注目を集め始めました。日本でも耳にする機会が増えたように思います。タレントマネジメントとは個人個人の能力や才能に着目する人事戦略全般のことを指します。配置や採用、育成に個人の能力や才能を生かすことで組織や従業員のパフォーマンスを最大化するという目的があります。実はタレントマネジメントの定義は様々で曖昧ですが、学界でよく使われているのはSHRM(全米人材マネジメント協会)、ASTD(米国人材開発機構)による定義です。
「人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと」
「人が持っている能力や才能にスポットを当て、能力中心に人材を活用する」
→個人の能力を最大限に生かすことによって組織全体の生産性を高める。
※現在はATD(Association for Talent Development:人材開発機構)
「仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、適材適所を実現し、仕事をスムーズに進めるため、職場風土(Culture)、仕事に対する真剣な取り組み(Engagement)、能力開発(Capability)、人材補強/支援部隊の強化(Capacity)の4つの視点から、実現しようとする短期的/長期的、ホリスティックな取り組み」
「適切なスキルを持った適切な人材を適切な職務に配置する」
→目標のために適切な人材配置をして組織全体の生産性を高める。
SHRMとASTDのタレントマネジメントの定義はどちらも抽象的で捉えづらいですが、この2つには共通点と相違点があります。
SHRMの定義の方が詳細な定義となっていますが、ASTDの定義の方が実務的で明確に運用しやすいと言えます。2つの定義を押さえることで会社のマネジメントに効果的に生かすことができます。
(参考)
日本企業における タレントマネジメントの展開と現状
タレントマネジメント論(Talent Managements)に関する一考察
タレントマネジメントには2つの種類があります。包含的アプローチと排他的アプローチです。それぞれどのようなものなのか説明していきます。
包含的アプローチとは広範囲の従業員や全社員に行うタレントマネジメントのことを指します。例えば人事配置に一人一人の能力を反映させること等が包含的アプローチにあたります。
排他的アプローチとは一部の限られた人にのみ行うタレントマネジメントのことを指します。組織のエリート層、組織の目標やゴール達成するために高いパフォーマンスを発揮する才能や能力(タレント)を有する人材層を主な対象として行います。例えば優秀な社員のリーダーシップの育成等が排他的アプローチにあたります。限られた経営資源を社員全員にいきなり展開することには制約が予想されることから最終目標を包含的アプローチにしつつも当面は排他的アプローチを行うこともあります。
このようにタレントマネジメントには2つの種類があり、どちらが正しいというものではありません。ではこれらのようなタレントマネジメントは何を目的として行われるのでしょうか?
(参考) 戦略的タレントマネジメントが機能する 条件とメカニズムの解明
タレントマネジメントは幅広い人事施策を指すためその目的も様々になります。ここではタレントマネジメントの目的を3つに分けて紹介します。
タレントマネジメントの目的として挙げられるものにはジャストインタイムのチーム編成や人材配置があります。ジャストインタイムとは「必要なものを必要な時に必要なだけ」という意味です。つまりジャストインタイムのチーム編成や人材配置とは必要な人が必要なだけ集まる組織のことを表します。具体的な施策の例には将来の採用候補者となり得る優秀な人材をデータベース化したタレントプールの作成や、人材に紐づく情報である人事データの構築等があげられます。
タレントマネジメントの目的には社員の育成があります。社員の能力を伸ばすには
の2種類があります。具体的な施策としては、後継者を育成するためのサクセッションプラン(後継者育成計画)を立て、各部門を経験させるジョブローテーションを行う等があります。
タレントマネジメントの目的の1つには能力に応じた適正な評価があります。能力を可視化し、業績だけでなく多面的な評価をすることで適正な評価を下せるだけでなく、従業員に納得してもらいやすい人事評価制度になります。具体的な施策としては様々な項目から分析を行い人事評価を支援するタレントマネジメントシステムの導入等があります。
タレントマネジメントを行うためには個人の特性や能力等の情報をデータ化し、可視化することが求められます。では社員の情報としてどのような項目を取り扱えば良いのでしょうか。ここではその例として5つを紹介します。
基本属性に関する情報は
の2種類があります。
キャリアに関する情報には例えば後継者教育計画に含まれる研修の受講歴やどのような仕事をしてきたか、等があります。キャリアに関する情報を整理しておくことで新たなプロジェクトのチームを編成するときなどに役立ちます。また、その人が歩んできたキャリアからその社員が希望する仕事の方向性が分かることがあります。
能力やスキルには
の2種類があります。測れないものが評価の基準として必要な際には自社で独自の尺度を創るなどの工夫をしましょう。フレキシブルに自社に合った基準を持てるのがタレントマネジメントのメリットだとも言えます。
記録すると役に立つ行動としては
等があります。ポジティブなもの、ネガティブなもの、どちらか一方だけで評価するのではなく、多元的に評価すると社員が公平な評価だと感じやすいでしょう。
マインド・価値観の項目に分類されるものにはどのような作業が好きか、仕事をどのようなものだと捉えているか、経営理念の解釈等が挙げられます。定量化しにくい項目ではありますが、社員のモチベーションに直接かかわる部分でもあるので項目には入れておくべきでしょう。
タレントマネジメントを導入する際にはこれらの項目を満たした人材データを構築する必要があります。これらのデータは古くなると意味がなくなるので定期的に更新することでいつでも新鮮な状態に保つことが重要です。
タレントマネジメントを行うためには従業員の基本的なデータや能力値、保有スキルをデータ化し一元管理する必要があります。従業員のデータを管理するツールのことをタレントマネジメントシステムと言います。
世の中にはいろんなタレントマネジメントシステムがあります。あまり考えずにとりあえず導入したタレントマネジメントシステムでは浸透させるのに苦労したり、過剰なコストがかかったり、不要な機能がついていたりといった問題点が後から出てくるものです。タレントマネジメントシステムを外注する場合にはタレントマネジメントを行う目的から採用するタレントマネジメントシステムを精査する必要があります。
タレントマネジメントの目的をもう一度確認すると、①ジャストインタイムのチーム編成や人材配置②社員の育成③能力に応じた適正な評価の3つでした。以下ではそれぞれの目的に適したマネジメントシステムを紹介します。
ジャストインタイムのチーム編成や人材配置をタレントマネジメントの目的にする場合、これらのようなタレントマネジメントシステムがあります。これらのツールは人材データの管理を得意としており、導入することで能力を俯瞰で見ることができるようになります。
社員の育成をタレントマネジメントの目的にする場合これらのようなタレントマネジメントシステムがあります。これらのタレントマネジメントシステムは人材育成計画や研修の提供によって後継者の育成を支援します。
能力に応じた適正な評価をタレントマネジメントの目的にする場合これらのようなタレントマネジメントシステムがあります。これらのタレントマネジメントシステムを用いることで多面的な評価と給与を連動させたり給与の均等性に根拠を持たせることができ、人事評価に対する社員の不満を減らすことができます。
自社の問題解決のために必要なタレントマネジメントシステムを選択することで無駄なコストをかけず、効率的なタレントマネジメントを行うことができます。
タレントマネジメントを導入している代表的な企業を紹介します。
資生堂ではサクセッションプラン(後継者育成計画)に力を入れており、能力開発を主目的とした難易度の高い業務へ携わる機会やグローバルな異動、リーダーシップ開発プログラムなど、それぞれの強みや開発課題に基づく一人別育成計画が策定されているそうです。
(参考)資生堂ホームページ
伊藤忠商事では、全世界の組織長人材をデータベース化、優秀な人材の採用・育成・活用・登用を行う「タレントマネジメントプロセス」の仕組みを構築しています。また、創業時から160年以上受け継がれている理念や価値観を、採用基準や評価・育成制度にも反映させ、価値観の合った人材の採用・育成を行っています。
(参考)伊藤忠商事ホームページ
Cyber Agent(サイバーエージェント)ではグループ内の様々な部署の職場環境や人材ニーズを可視化したシステム「キャリバー」の構築や希望する他部門またはグループ会社への異動ができる社内異動公募制度「キャリチャレ」、役員が戦略的な人事配置についてのみ話し合う会議である「人材覚醒会議」の導入などユニークな方法でタレントマネジメントを行っています。
(参考)サイバーエージェントホームページ
以上のように日本でタレントマネジメントを導入している企業は多国籍なものが多いです。グローバル化が進み企業競争の規模が大きくなる中、日本はタレントマネジメントの導入において韓国やアメリカに比べ後れを取っています。日本企業での積極的なタレントマネジメントの活用が今後期待されます。
タレントマネジメントについてもっと知りたいという方は以下の本を読むことをおすすめします。
タレントマネジメントの入門書としては以下のようなものがあります。タレントマネジメントの概要を知るテキストとして活用するとよいでしょう。
タレントマネジメントについて具体的な施策や実践的な内容を学びたい方にはこちらの本を読むことをおすすめします。
先ほど述べたようにタレントマネジメント行ううえで必要な人材データの項目には「マインド・価値観」というものがありました。マインドに関しては特に定量化しにくく同時に変化しやすいものです。そこでおすすめしたいのが「wellday」です。「wellday」を使えば社員のストレス値と仕事に対する意欲を表すエンゲージメントをチャットツールから自動で分析することができます。
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(参考)
タレントマネジメント論(Talent Managements)に関する一考
(守屋 貴司、立命館大学経営学会、立命館経営学53巻2/3号23-38ページ、2014)
日本企業におけるタレントマネジメントの展開と現状
(柿沼英樹、京都大学大学院、Works Discussion Paper No.4 、2015)
戦略的タレントマネジメントが機能する条件とメカニズムの解明―外資系企業と日本企業の比較事例研究
(石山 恒貴・山下 茂樹、日本労務学会誌 Vol. 18 No. 1 : 21 − 43、2017)