人的資本経営への注目やコロナ禍におけるリモートワークなどで従業員のメンタルヘルスケアについて関心が集まっています。 「定性的な従業員のコンディション把握しかできない」「メンタル不調の予兆はあるけど判断できない」などの悩みはまだまだ情報が少ないのも現状です。 こうした悩みを乗り越えようとしている会社は、どのような取り組みをして組織の成長を実現しようとしているのでしょうか。 株式会社ニューピースの染谷英輝氏、アガサ株式会社の藤山亜衣氏の2名の人事の実践事例から解説しました。 本記事で、当日のセミナーの様子をレポートします。
本セミナーでは、急成長ベンチャーの人事・経営層・マネージャーの皆様を対象に、組織全体でメンタル不調を予防しフォローする仕組みづくりをサポートすべく、「急成長を導くマネージャーの型」の著者兼、株式会社EVeM代表取締役CEOの長村禎庸氏をお招きし、メンタルヘルスが落ち込んでしまったメンバーや、ストレス負荷が高まっているメンバーとの対話の「型」を解説します。
【こんな方におすすめ】
飯野: welldayは週次でリアルタイムにエンゲージメントを可視化して、従業員の方をサポートするエンプロイーサクセスプラットフォームを提供しています。
ポイントとして、アンケートとAIによる分析でリアルタイムに近い形での状態把握ができること、たったの1分で簡単に回答できるアンケート、課題も特定できるのでフォローしやすいこと、が挙げられます。
まずは、普段welldayをお使いいただいているお二方に、導入の背景をお伺いします。
染谷: 会社はまだ9期目でベンチャーです。ブランディングを得意とする会社で、世の中にない新しい価値を作り、それが定着するまでアクションして届けていく「ビジョニング」の会社です。集まってくるメンバーも、大きなミッションを胸に持った、公私混同した、強いwhyを持っている人が多いです。その強い思いを持って業務に当たっていると、公私混同しているが故に、業務での疲弊がダイレクトに自分に来たりします。
その当時のニューピースは、休職者が続出して体調不良を起こし、退職していく人が多くいた1年間でした。それに対して、会社のアクションが常に後手に回っていました。早期発見することができず、気づいたときには不調からの症状が出てしまっていました。僕らもとりあえず休んでもらうしかできず、対処するノウハウもありませんでした。どうやったら事前に知ることができるんだろう?ということと、属人的な対応しかできなかったので会社として基盤になるような仕組みが欲しいという話をしていました。 他社のエンプロイーサーベイも入れてはいたが、welldayが良かったのは月一のタイムリーなサーベイでした。サーベイの期間が半年間空いてしまうと手が打てないので、月一くらいの頻度で状態をウォッチできるのが良いです。かつ、1分で回答できるのが良いですね。会社からのお願い事は、メンバーにとっては向き合っている業務の方が最優先になってしまうので、負荷をちゃんと減らしてあげたい。でも、みんなの心身の健康状態を考えている会社の姿勢も示したいので、なるべく負荷が少ないという点でwelldayに決めました。
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飯野: ありがとうございます。染谷さんにはメンバーの調子を測るものさしとしてwelldayを使っていただいていますよね。藤山さんはいかがですか?
藤山: 提供しているサービスがコロナ禍に入って追い風になり、申込者数と利用者数が急増しました。それによって人手不足になり、もともと20名程度だった従業員数から、1年弱で倍の約20名の新規採用を行いました。整備が整っていない状態から組織規模が拡大したので、一人一人のアラートが見えづらくなっていき、いわゆる30人とか50人の壁問題に直面しました。検討していた当時、社員の現状への不満・今後への不満が徐々に溜まって会社の雰囲気が悪くなってしまい、メンタルヘルスケアの早期の取り組みの優先度が上がっていました。取り組みはしていたものの、本格的にメンタルヘルスケアの取り組みをするために、今後コミュニケーションのとり方が重要なのと、客観的に見られるある一定のものさしが必要だよね という話になりました。ツールは複数社比較検討していましたが、welldayに決めた理由は、アンケート結果だけでなく、Slackの連携でAIによるエンゲージメントの変化がウィークリーで見て取れる点が魅力に感じて、決定しました。
飯野: AIのスコアは8割の精度ではありつつ、週次でも傾向値を見る上では便利にお使いいただけるかと考えています。藤山さんが実際にwelldayを入れてみて良かったと思う点はありますか?
藤山: もともとツールを入れていなかったので、可視化できていない、どちらかというとマイナスの状態からのスタートでした。導入していいなと感じたのは、コンディションタイプ・ワークエンゲージメント(※やりがいを示すスコア)・ストレスマネジメント(※ストレスレベルを示すスコア)がシンプルでわかりやすいところです。時間がなくても管理画面を見ると、一覧から誰がアラート対象かが判断できるので、一番最初にいいなと思いました。
飯野: welldayはAIの分析スコアが出ることが特徴なのですが、スコア自体の精度・正しさはどう捉えていますか?
染谷: 逆の発想で、スコアに何か上下があるのはその理由があるんだなと思っています。ある意味精度としては正しいなと思っています。スコアを見てその原因をヒアリングとマネージャーの意見とで探っています。
飯野: あくまで数値としてみた上で、あくまで背景を撮りにいくのはマネージャーの方とも連携しながら進めているということですね。welldayのスコアが出た後、どうやってマネージャーの方とも連動しながら進めていらっしゃいますか?
染谷: 前提、welldayを入れているからOKということではないと考えています。総合的に考える1つの材料として考えています。「welldayの情報が正しい、導入したら全て解決する魔法のツール」ではないです。ただ、今まで見えなかったことが見えるようになるのが大事です。なので、welldayのスコアをベースにしながら、他の要素も見ながら活用しています。
サーベイの結果が出た後に、定例のアジェンダでwelldayのスコアを見たり、全てのメンバーに焦点を当てる定例のミーティングを組んでいて、一人一人のスコアを見ています。特にスコアの推移を重視しています。当然個人差があるので、例えばストレスのスコアがAからFの段階の中で「C」と出たとして、同じCでも人によってC具合は違うと思っています。前の月からどう変化しているのか、半年前からどう変化しているのかを見た時に、その人のモチベーションやストレスの変化がわかります。なぜ変化しているのか、原因はこれかもね、という考察をコーポレートのマネージャーと代表と三人で行っています。協力を仰ぐマネージャーにその定例から連携していくやりかたが定着しています。
藤山: 染谷さんの活用方法と似ている部分でもありますが、アンケート回答後に報告会を実施しています。社長に対してはマネジメント向け、マネジメントに対しては部署メンバー向けに、それぞれ別途時間を抑え、人にフォーカスを当てたミーティングを月に1回ずつしています。welldayの管理画面とは別でスライドを作成していて、前月からのスコアの変動も含めて振り返りを行っています。バーンアウトという優先的にケアしないといけない方だけでなく、アンケートの回答時だけスコアが異常に高くなる人や、ワークエンゲージメントが低い・ストレスがかかっている人も取り上げてマネジメント間でディスカッションしてもらっています。前月からスコアが上がった人がいた場合は、どういうコミュニケーションをして上がったのか、ポジティブな面も含めてマネジメント間でシェアする取り組みもしています。
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飯野: wellday以外でも、皆さんがどのようにコミュニケーションをとっているのか教えてください。
藤山: welldayを導入した後に残念ながら数名退職に至ったケースもありました。ワークエンゲージメントとストレスマネジメントが逆転していて、退職前のコミュニケーションの中でも、ご自身がやっている業務に合っていないだとか、悩みに対して改善されないと感じて退職したということがわかりました。今だと、スコアが逆転している人が分かり次第、早期にコミュニケーションをとりにくいくようにしています。勤怠チェックも私の方でしているのですが、休憩が取れていなかったり、残業が増えている人には、体調面で私の方から連絡をしています。その際に、大丈夫ですか?というよりは、雑談形式でコミュニケーションをとって、不調者がいないか検知しています。休職・退職になりそうな人は早い段階でピックアップして、報告会に持ち込んで、状況確認をマネジメントに向けて行っています。
飯野: 個人に連絡するときに会話の仕方など、注意していることはありますか?
藤山: 先月こうなっていたから大丈夫?というストレートな連絡の取り方はあまりしていません。基本は「受け皿になる」ことを自分自身で掲げているんですが、相手に喋ってもらえるようなコミュニケーションの取り方をしています。
飯野: 染谷さんはどのような声掛けの仕方をしていますか?
染谷: 僕が動くと会社が動くというような、「会社の声」という形に見られがちになるが、そうならないように染谷個人として心配しているということを出しています。「サーベイの結果がこうだったからどう」という話は全然せず、「最近どう?」のようなカジュアルなコミュニケーションをしています。早期発見のためには、休職というものに対する会社の考え方も大事だなと思っています。日本の一般的な会社だと、休職イコールよくない印象だと思うが、スポーツに例えたらシンプルで、怪我したら休むじゃないですか。風邪ひいたら薬飲んで2,3日寝込みますよね。休職もそれと同じで、メンタルも同じだと思っています。メンタルが悪い時って何をやっても悪くなってしまうので、まず休むことをおすすめしています。それによって、離職を防ぐことができるようになるので、会社にとっての休職に対する考え方も変えることが大事かなと思っています。メンバーにとっての休職という捉え方も刷新していく必要がありますね。
飯野: 確かにリハビリという感覚はわかりますね。また別の話になりますが、アンケートを見て「これどうなっているの?」とコミュニケーションをするとなかなか書きづらい雰囲気にもなってしまうかと思っています。お二人の会社はサーベイの回答率が高く、しっかり回答いただいている社員の方が多い印象もあります。アンケートで本音を書きやすくするために、工夫していることはありますか?
染谷: 何かアンケートをした時に返事をすることってものすごく大切なことだよ、というコミュニケーションを会社全体でしています。誰かが発表をしたときに質問があるのと同じで、「フィードバックはギフト」という雰囲気がカルチャーとして根付くように言い続けてコミュニケーションしています。アンケートを送ると、むしろ直接しゃべるよりも詳しく書いてくれることもある。そういった土壌づくりが下拵えとして大事だと思っています。
飯野: リモートワークでのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
藤山: もともとリモートワークが中心の会社なので、テキストコミュニケーションがメインになってきます。Slackのステータスの活用や、オンライン・オフラインなど稼働状況を明確にすることは会社としてルール化しています。スタンプでリアクションしたり、相手の稼働状況に合わせて、一言添えてコミュニケーションしていくように皆さんにお願いをしています。ミーティングには原則顔出しで参加して、オンラインの全体定例ではGoogle Meetを使っているのですがが、チャットでコメントしたり、スタンプを活用するなど、目で見えるリアクションをとってもらう取り組みをしています。
飯野: リモートワークでメンタル不調を抱える方が出てしまった場合に何をしていますか?
染谷: 出る前の話になるが、会社で毎朝自分が動き出すときに何かしらのコメントを発するチャンネルをSlack上で作っています。「花粉症が酷すぎてやばい」など、自分の偏愛しているものの話などなんでも良いが、その時のスタンプや発言の内容でコンディションを感じ取れたりします。あとは、オンライン上での定期的な交流の場を作っています。かれこれ3年以上続いているんですが、社内ラジオ番組があって、毎週水曜日の18時から30分チャンネルを開いてだべるのをやっています。毎回社内の誰かをゲストに呼んであるテーマに沿って喋っています。あとは、チャンネルでもくもくチャンネルというものがあり、各々作業をするんですが、耳だけ繋がって、隣で作業しているような雰囲気を作っています。そういう、オフィスで出社していたら日常的に生まれていた雑談を、オンラインのプラットフォーム上で、何も考えずにシステム化するか、が大事だなと思っています。
飯野: 僕自身も、リモートで何をやっているかわからない状態にならないように社内でも発信しています。たまにボケを挟んだりとか、自分からアラートを出したりとかですね。
染谷: うちのslackだと文化的に真面目に投稿しがちだけど、あえてゆるく投稿していいんだよという雰囲気づくりでおちゃらけたりもしています。あんまり丁寧にかしこまるようなことはしないようにしています。
藤山: マネジメントによって対応は異なりますが、アイスブレイクを挟みながらどんな悩みを抱えているか対話してもらっていますね。業務上の課題であればヒアリングの中で対応いただいていますが、メンタル不調ってデリケートな問題なので、あまり知識がない状態で無理に解決しようとすると逆にダメージを与えて悪化してしまう可能性もあるので、無理に解決しようとせず持ち帰ってもらうこともおすすめをしています。直属のマネジメントが対応しない方が良いケースもあって、別の部署のマネジメントに対応してもらうこともあります。あとは、welldayの結果から人事が本人に直接ご連絡することは基本していないです。例えば学生時代にちょっとサボりたいなと思った時に保健室に行ってみたことってあるじゃないですか。そういった立ち位置に自分がなって、「藤山にちょっと話してみようかな」という雰囲気になるように、普段から満遍なく皆さんとコミュニケーションするように気をつけたりしています。
飯野: どうフォローしていくのが理想なんでしょうか。保健室の先生のような形なのか、マネージャーの方からフォローするのかなどやり方は色々あるかと思いますが、染谷さんはどんなことを意識しているんですか?
染谷: 理想はないなと思っています。会社によって違うし、その人によっても違うので。自分は保健室の先生にはなれなくて、別のコーポレートの人間が度量広く受け止めてくれるので一任しています。自分はどちらかというと、僕とオフィシャルで面談するときは人事面談をするよという言い方をしていて、人事としての役割を担っているので、マネージャーとも対等に話すし経営ボードとも対等に話すということで、正規ルートとして、声を上げてくれたら掬いあげるよ言うよという話は伝えています。
あとは、不調の状態って、エネルギーがゼロではなくてマイナスなんですよね。その時に、山を登ろうとしても登れなくて。でも、例えばエネルギーが50とかあったら、その山は登れているのに、ということがあると思います。なのでまずは、マイナスになっていたら0になろうよ、というのがまずはメンタル不調の方への対応の第一歩として大事だと思っています。1年間くらいいろんなメンバーの不調に伴走した経験からすると、0に戻った瞬間に、未来の話がその人とできるようになるんです。これが自分の中でのシグナルで、未来の話ができるようになると、エネルギーが溜まっていってるなという感覚があります。そうすると業務の悩んでいたことも冷静に話ができるようになるし、マネージャーと1on1してもらっても、建設的な議論ができて次のステップに進めるようになります。まずはニュートラルに戻すことを、急がせずに伴走することが自分の務めかなと思ってやっています。
飯野: 染谷さん・藤山さんはそういったコミュニケーションのプロだと思うのですが、マネージャーの方から不調者に対応する場合に何かお伝えしていることはありますか?
染谷: 藤山さんが言っていた、何も対応せずに持ち帰ってもらうというのも正しいと思っています。そのマネージャーに、メンタル不調時の対応ができるか、は別の能力だと考えています。僕らもプロではないが、業務の範疇にあったので経験をその人より積んでいると言うだけだと思っています。ミドルマネジメント層を作って30人50人の壁を超えていく段階だとは思うが、ミドルマネジメント自体も経験不足だと思うので、無闇にマネージャーに依頼しないのが大事だと思っています。単純に守備範囲が異なるし、マネージャの負荷も軽減させたい。不調のマネジメントができる、経験のあるメンバーしか不調者との面談はセットしないですね。それよりは、代表とか人事が回収した方が、会社からのアクションに繋がりやすいと考えています。
藤山: うちの会社はメンバー・グループ長・部長、という階層になっていて、グループリーダーで全て解決してもらうことはしていません。ヒアリングも曖昧なことも多いので、内容を持ち帰ってきた段階で対応を検討しネクストアクションを決めるという対応をとっています。不調者って解決して欲しいと思っていないケースも実はあったりするので、聞いてあげる・寄り添ってあげることからスタートしています。
染谷: 聞いてあげる、は大事ですね。
ツール導入の背景は、メンタル不調へ属人化しない客観的なものさしになる基盤が必要と感じたことがきっかけとのことでした。
アラート検知後の対応方針は、お二人とも共通のものさしとしてのデータもとに状況を推察して、経営陣とマネージャーと連携して決めて推進されていました。 併せて、サーベイを使う場合は、本音でアンケートに回答してもらうためのカルチャーの土台づくりも重要です。
メンタル不調者へのコミュニケーションは、以下2点がポイントでした。 ①「聞く」姿勢:サーベイに回答していたから話しかけたというよりは、最近どう?とその人自身を気にかける姿勢を意識。 ②知識がない人が無理に対処しない:マネージャーからの対処が難しい場合、人事に持ち帰ってもらうことも重要。
また、お二方がwelldayを不調の事前検知のツールとして選んだポイントは、以下の2点がありました。 ①タイムリーにケアできる頻度で可視化ができること ②社員の回答負担が少ないこと
ぜひ、メンタル不調を抱える社員の方への対応にお悩みの方や、今後サーベイツールを検討されている方の参考になれば幸いです!