人事領域の意思決定は、旧来は担当者の経験や勘で行われていましたが、近年はデータを活用して行われるようになってきています。データを根拠に人事領域の意思決定を下すことを「ピープルアナリティクス」と呼びます。
このピープルアナリティクスとは何なのでしょうか?ピープルアナリティクスは、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?今回は、ピープルアナリティクスについて詳しく解説します。
ピープルアナリティクスとは、「People(人事領域)」+「Analytics(分析)」を合わせた造語です。従業員や組織に関するデータを収集・分析して人事領域に活かす手法をいいます。
ピープルアナリティクスの目的は、従業員や組織に関するデータを収集・分析して、人事採用や人事配置に活用していくことです。従業員データや勤務データなどが分析の対象となり、これらを活用して人事戦略に役立てていきます。
近年は、データドリブン経営(データを基にした経営)と呼ばれる言葉が浸透してきています。その結果、担当者の経験や勘を頼りに意思決定するのではなく、データに基づいた意思決定を下す企業が増えてきているのです。
ピープルアナリティクスが重要である理由は、人事採用や人事評価の透明性が保つことができるためです。
例えば、人事担当者の経験や勘に基づいて人事評価をすると、適正な評価がされていないと従業員に不満を持たれるかもしれません。また、人事評価には人事担当者の私情が入ることもあります。このような人事評価を行うと、従業員は「適正な評価をしてもらえない」と不満を持って退職してしまいかねません。
このような問題を、人事評価の根拠となるデータの提示することで解決できます。 データに基づいて人事評価を行えば、従業員に納得してもらえます。
このように、人事領域の業務に透明性・公平性を保てるため、ピープルアナリティクスが重要だと述べられてきたのです。
ピープルアナリティクスの現状として、人事領域にデータを活用したいけれど、上手くできないと悩む企業が多く見受けられます。
パーソナル総合研究所「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」では、企業全体の75.5%がピープルアナリティクスを採用した方が良いと考えていることが分かります。しかし、データを人事領域に活用したいけど上手くできないと悩んでいる企業は全体の35.5% のです。データを活用して意思決定に役立てられていると回答している企業は僅か16.9%。この報告書から、ピープルアナリティクスに上手く取り組めていないと悩んでいる企業が多いことが伺えます。
【出典】パーソル総合研究所「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」
多くの企業が取り組み始めているピープルアナリティクスに取り組むと、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、ピープルアナリティクスの活用によるメリットをご紹介します。
ピープルアナリティクスを活用すれば、データに基づく意思決定ができます。人事領域の業務に関して判断基準を明確にしておけば、誰が意思決定しても同じように行えます。 そのため、人事の決裁権を握る担当者が退職しても、後任者が前任者と同じように意思決定が下せるようになるのです。
データに基づいた意思決定は、従業員も納得しやすく、判断基準を設定しておけば共通認識が持てます。 共通認識が持てれば、意思決定する会議もスムーズに進められます。
ピープルアナリティクスを活用すれば、戦略的な人材採用が行えます。
例えば、社内でパフォーマンスを発揮している従業員のデータを分析して、属性や志望動機、質疑応答時の対応を分析すれば似ている人物を採用できます。似た属性の人材を採用すれば、社内で活躍してもらえるだけでなく、採用後の定着率アップにも繋られるでしょう。
従業員のスキルや能力、思考をデータ化すれば、どこの部署、職務に就かせるべきか判断しやすくなります。
例えば、部署で活躍している従業員を分析すれば、その場で活躍するために必要なスキルや能力が把握できます。現場で求められているスキルや能力を持つ従業員を配置すれば、部署で活躍してもらえるでしょう。また、特定のスキルや能力を身に付けたいと志願している従業員を部署に異動させれば、満足してもらえて高いモチベーションを発揮しながら働いてもらえます。
データに基づいた人事評価を行えば、従業員は評価の根拠を聞けるため、納得して結果を受け入れられるようになります。ピープルアナリティクスを活用した、人事評価の基準を共有しておけば、従業員側も高い評価をもらおうと意欲的に働けるでしょう。
人事評価で従業員に納得してもらうためには、人事評価の透明性・公平性を保つ必要があります。これらは、ピープルアナリティクスで実現できます。
従業員の行動データを解析すれば、前月と比較して意欲的に働けているかを把握できます。行動量が落ちている従業員を発見してフォローすれば、従業員が1人で悩みを抱えずに済みます。
従業員が悩みを誰にも打ち明けられずにいると、突然、退職したいと打ち明けられてしまうかもしれません。このような従業員の退職を防止するために、メンバーの異変に気づき、周囲でフォローする必要があります。
ピープルアナリティクスを活用して、データ面からも従業員の状況をモニタリングすれば、異変に気づきやすくなります。そのため、従業員の退職防止ができるのです。
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ピープルアナリティクスには、さまざまなメリットがありますが、デメリットや注意点もあるため注意してください。ここでは、ピープルアナリティクスの活用によるデメリット・注意すべきポイントをご紹介します。
ピープルアナリティクスに取り組むためには、十分なデータ量が必要になります。社内にデータが蓄積されていない状態では、ピープルアナリティクスに取り組めません。
少量のデータを分析して人事に関する意志決定をしても、自社にとって最適な施策が立案できません。偏りのあるデータを参考に誤った意思決定をしてしまうケースは多いため、ピープルアナリティクスに取り組むために十分なデータ量を蓄積しておきましょう。
ピープルアナリティクスで、戦略的な人事採用や適切な人事評価を行うためには、データ分析のスキルがある担当者に任せる必要があります。
その理由は、データ分析の仕方を間違えると、人事戦略の施策を打っても期待通りの成果が見込めないためです。
例えば、データの入力ルールを統一しておかなければ、分析に役立てることはできません。 分析手法の手順を間違えて工数が増えることもあるでしょう。そのため、ピープルアナリティクスを実施する場合は、担当者はデータ分析のスキルを身につけてもらう必要があります。
ピープルアナリティクスを活用し始めると、データ分析の結果のみで意思決定をしがちです。
データに基づいた意思決定は間違いではありませんが、人事評価を行う場合は、結果だけでなくプロセスも大切です。 プロセス評価とは、目標にたどり着くまでの過程における努力を評価することをいいます。
データに基づいた業績評価だけでなく、プロセス評価を行うことで「この上司は、私の努力を見てくれていて成長を望んでいる」と信頼してもらえるようになります。そのため、ピープルアナリティクスに取り組む場合は、データのみで判断しないようにしましょう。
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ピープルアナリティクスは次のような手順で分析していきます。
1.データを収集する
2.目的を設定する
3.データを分析する
4.解決策を実行する
ここでは、各手順について詳しく解説していきます。
まずは、ピープルアナリティクスに取り組むために必要なデータを収集していきます。初めてピープルアナリティクスに取り組む企業は、必要なデータが一元管理できていないケースが多く見受けられます。 そのため、他部門にも協力を仰いで、以下のようなデータを収集して一元管理しましょう。
データは入力形式を同じにして比較しやすいようにするなど、工夫して管理することが大切です。
■ピープルアナリティクスに必要なデータ
次に、ピープルアナリティクスの目的を設定します。その理由は、目的を定めずにデータを集めただけでは具体的な施策の立案や、意思決定が下せません。 そのため、人事領域のどの業務を改善したいか明確な目的を設定しましょう。ピープルアナリティクスの目的には、以下のようなものがあり、企業によってさまざまです。
ピープルアナリティクスの目的
・会社の定着率を上げる
・従業員のパフォーマンスを最大化する
・戦略的な人材採用を実現する
・従業員の退職を防止する
そのため、ピープルアナリティクスに取り組んで叶えたいことを設定しましょう。
ピープルアナリティクスの目的を設定したら、データ分析を行います。データ分析を行う場合は、最初に年齢別や部署別で、どのような傾向があるか大まかに把握することが大切です。
気になる箇所を見つけたら、細かくデータを分析していきましょう。最初から細かくデータ分析を行うと、施策を打つまでに時間が必要になってしまうため気をつけてください。
また、データ分析する際の注意点として、データから読み取れることだけを鵜呑みにするのは控えましょう。各メンバーとコミュニケーションをして、定量的データと定性的データに基づいて分析するようにしましょう。
データ分析で見えてきた、自社の課題に対する解決策を立てていきましょう。例えば、従業員の行動データを分析した結果、前月比で行動量が異なるメンバーが退職する傾向を見つけたら、フォローするなどの解決策を打ちましょう。また、解決策を実行したら終わりにせず、施策で効果が出たか、データで検証しましょう。 自社の課題は改善したら終わりではなく、PDCAを回して良くすることが大切です。
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ピープルアナリティクスの分析手法を説明しましたが、実施する場合は以下の点に注意してください。
ピープルアナリティクスに取り組むときに、従業員の個人情報を取り扱います。社内で個人情報を取り扱う場合は以下のような点に気をつけましょう。
・従業員から情報提供の了承を得る
・どの範囲の情報まで収集するか伝える
・情報の利用目的を伝える
上記を守るだけではなく、個人情報の取得や活用に関するガイドラインを作成しておくと、トラブルが起きにくくなります。
また、第三者機関に個人情報を共有する場合は、契約書で守秘義務について記載しておきましょう。
ピープルアナリティクスが普及しても、データ収集する目的を定めて必要な情報だけ取得してください。従業員の情報をむやみに収集すると、プライバシーが保護されていないと感じてしまう恐れがあります。そのため、企業が従業員の情報を収集する場合は、プライバシーに配慮してください。
ピープルアナリティクスで成果を出すためには、データの一元管理が欠かせません。その理由は、データが統一されていなければ分析できないためです。
例えば、データがバラバラに管理されていると抜け漏れが出てしまうかもしれません。また、データ入力のルールを設けておらず、各自が自由にデータ入力すると統一感がなくなり分析が難しくなります。さらに、主観的に入力されたデータを活用しても効果を発揮する施策は打てません。
このような問題を防止するためにも、データを一元管理しておきましょう。データ入力のルールを設けておくなど仕組み化しておけば、データ分析が行いやすくなります。
ピープルアナリティクスを人事採用や人事評価に活かすためには、高度なデータ分析を行う必要があります。高度なデータ分析が行えれば、根拠に基づいた意思決定ができて、理想通りの成果が得られます。そのため、ピープルアナリティクスに取り組む場合は、担当者にデータサイエンティストのスキルを身に付けさせましょう。データサイエンティストのスキルが学べる研修などが用意されています。
また、社内に適任者がいない場合は、実績を持つデータサイエンティストを採用するのも1つの選択肢です。
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ピープルアナリティクスに取り組むためには、データ分析のスキルが必要になると説明しました。ピープルアナリティクスに関する資格の取得は必須ではありませんが、保有しておくと安心・安全に取り組めるようになります。そのため、興味がある方はピープルアナリティクスに関する資格を取得させましょう。ピープルアナリテフィクスの資格には、以下のようなものがあります。
人事データ活用保護士とは、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクロノジー協会が認定している資格です。人事データ活用保護士を取得すれば、HRテクロノジーの活用についてのスキルが認定されます。
また、人事データを活用する上での基礎的な法律の知識や、データの正しい扱い方を身に付けることも可能です。ピープルアナリティクスの担当者に取得させたい資格として注目を浴びています。
ピープルデータアナリストは、非営利団体のHRテクノロジーコンソーシアムが認定している資格です。同社のピープルデータアナリスト養成講座を受講して、修了試験に受講すれば資格が取得できます。終了試験は合計20問が出題されて、70%以上すれば合格です。受講期間中は、合格するまで何度も受験できるため難易度は簡単です。
講座ではピープルアナリティクスの基本概要から実践方法まで、ひと通り学べます。
データサイエンティストは、一般社団法人データサイエンティスト協会が認定している資格です。データサイエンティスト検定では、以下の3つの能力が求められます。
1.データサイエンス力(情報処理・人工知能・統計学などの理解力)
2.データエンジニアリング力(データサイエンスを意味のある形に実装・運用する力)
3.ビジネス力(ビジネス課題を整理し解決する能力)
数理・データサイエンス・AI教育のリテラシーレベルの実力を有していることを証明できます。
最後にピープルアナリティクスに取り組んでいる企業事例をご紹介します。
グーグル社では人材採用や従業員の教育などの組織体制を整備するために、ピープルアナリティクスを作用しています。同社では、「高い業績を上げている従業員が退職してしまう理由は何か?」「新たなプロジェクトリードに適しているのは誰なのか?」などの人事に関する難しい課題を解決するために、データを積極的に活用しています。
同社では、ピープルアナリティクスの効果を実感しており、公式サイトでピープルアナリティクスの取り組み方について説明しています。
日立製作所は、社内でピープルアナリティクスによる効果を得られたことから「Hitach AI Technology/H」と呼ばれるピープルアナリティクスソリューションを提供しています。同社のソリューションを利用すれば、個人と組織の状態を定量的かつ客観的に見られるようになります。
個人で行動量が減ったメンバーをフォローして退職防止をするなどの対策が打てるようになるのです。同社は、自社ソリューションを活用して、人材価値と組織力を高める取り組みが行われています。
ソフトバンクグループでは、統計などデータサイエンティストに詳しい社員を集めて、2018年からピープルアナリティクスに取り組み始めました。そのキッカケは、マーケティング部門を希望していた従業員が人事部門に配属され、ピープルアナリティクスに取り組んでみたいと志願したことから始まったのです。
当時のHRTechは、人事業務を自動化したり、作業時間を短縮したりするものが多く見受けられました。同社では、業務効率化だけではなく、人材採用や人事評価の意思決定の精度を向上させたいと思っていたのです。データの統合など苦戦することは多々ありましたが、データ分析に興味があった担当者の意欲により高い成果が見込めました。
今回は、ピープルアナリティクスについて解説しました。データドリブン経営が話題になり、人事領域もデータに基づいた意思決定をする方向性に向かってきています。 データに基づいた意思決定を下せば、従業員に納得してもらえたり、高い成果が期待できたりするでしょう。しかし、ピープルアナリティクスに興味があっても、上手く行えていないという企業が多いのが現状です。そのため、これを機会にピープルアナリティクスを学んでみてください。
この記事では、ピープルアナリティクスの分析手法や早期から取り組んでいた企業事例を紹介したので、ぜひ参考にしてみてください。
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