オンボーディングとは、新入社員・中途社員などの新人メンバーを全社的にサポートする取り組みのこと。発祥は海外であるこの取り組みは、近年、早期離職に頭を悩ませる日本の企業人事から注目を集めています。特に多くの新人採用が必要となるスタートアップでは、事業の成長を左右する重要なカギを握ります。あなたの会社では、新人を迎えるにあたってどのような準備をしていますか?
この記事では、「オンボーディングとは何か?」という本来の意味や概要から、必要性・目的までしっかりと解説。具体的な施策例やスタートアップ企業の成功事例も紹介します。
【主なトピック】
【こんな方におすすめ】
オンボーディングとは、新しいメンバーに、いち早く組織に順応し戦力として活躍してもらうための取り組みを意味する人事用語です。
この言葉は、船や飛行機に乗っていることを意味する「on board」に由来しています。 アメリカでは初出社の新人に“我がチームへ、ようこそ!”という歓迎の想いを込めて「Welcome on board!(乗ってくれてありがとう)」と声を掛けます。会社・組織を乗り物に、そしてメンバーを乗組員に例えた、この言葉がオンボーディングの語源であると言われています。
上記の由来からも分かるように、オンボーディングには “新しい乗組員が早く現場に慣れるために、仲間として適切にサポートする” という意味合いが含まれるということを覚えておきましょう。
日本では、ときにオンボーディング=新人の導入研修と捉えられることがあるようですが、海外で広く浸透しているオンボーディングでは、研修だけではなく、会社・組織の人や風土、仕事の進め方などの情報を提供することに重きをおいた、新人支援のためのプロセス全般を指します。
例えば、企業のビジョンや仕事で何が重視されるかという評価基準、組織内で使われる社内用語、業務上関わる人との人間関係といった情報を共有することも、オンボーディングの一環です。
現場に慣れて定着し、戦力としてパフォーマンスを発揮するためには、入社直後の短期的な導入研修だけでは十分ではありません。人事だけでなく、共に働く上司や同僚からの継続的なサポートが必要となります。
また、オンボーディングの対象は、新たに組織に加わったすべての人材です。新卒採用者だけでなく、中途採用で仲間に加わった中途社員も含まれます。
近年、企業の人事がオンボーディングに注目する背景には、早期の離職率の高さにあると考えられます。
厚生労働省が2022年10月に発表した「新規学卒就職者の離職状況」によると、新規大学卒就職者の3年以内の離職率は31.5%となっており、前年度よりも0.3ポイント増という結果でした。
■ 新規学卒就職者の就職後3年以内離職率
【中学】57.8% (+2.8P)
【高校】 35.9% (▲1.0P)
【短大等】41.9% (+0.5P)
【大学】 31.5% (+0.3P)
( )内は前年比増減
【出典】厚生労働省:新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します
中途採用者においても、入社3年以内の離職は決して少なくありません。2019年の転職者数は351万人と過去最多を記録。「より良い条件の仕事を探すため」の転職は珍しいことではなくなっています。
【参考】総務省:統計トピックス(労働力調査)
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人材の流動化が進む中、社員の離職、特に若年層の早期離職は人事が頭を悩ませる重要課題のひとつです。厚生労働省の発表資料によると、若年正社員の定着のための対策を行っている事業所は72.0%。若年労働者の定着のために実施している対策としては「職場での意思疎通の向上」が一番多く挙げられました。
■若年労働者の定着のために実施している対策
・ 職場での意思疎通の向上(59.0%)
・ 本人の能力・適正にあった配置(53.5%)
・ 採用前の詳細な説明・情報提供(52.0%)
※複数回答
【出典】厚生労働省:平成30年若年者雇用実態調査の概況
入社した後に会社の組織の風土や仕事の進め方、人間関係に違和感を持ったままでいると、本来のパフォーマンスを十分に発揮できないだけでなく、場合によっては離職につながる原因にもなりかねません。
そのような事態を避けるためにも、オンボーディングで既存メンバーと新人メンバーが密にコミュニケーションをとり、相互理解を深めていくことが大切なのです。
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オンボーディングの目的のひとつは、新人メンバーに早く組織に順応してもらうことです。
前述の「平成30年若年者雇用実態調査の概況(厚生労働省)」によると、若年層の退職の理由として、人間関係への不満が数多く挙げられています。人間関係の不満としては、「組織になじめない」「上司や同僚とのコミュニケーション不足」などが考えられます。
コミュニケーションが希薄な職場では、新人メンバーは知っている情報が少ないと感じ不安を覚えたり、思ったことを自由に発言することを躊躇してしまったりすることもあるでしょう。
オンボーディングでは、新人がいち早く組織に適応できるように、新人メンバーと既存メンバーのコミュニケーションの活性化を行います。チームや部署、会社全体で社員同士のコミュニケーションを推進することで、新人に「自分はこの組織の一員である」という帰属意識を持ってもらうことにもつながります。
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オンボーディングの目的のふたつ目は、新人メンバーに早期に活躍をしてもらうことです。
入社後に、スムーズに業務を覚えられるよう組織として支援することで、「周囲の人がサポートしてくれる」という安心感を持って働くことができます。分からないことは分からないと聞きやすく、自発的に自分の意見を言いやすい環境を整えるようにしましょう。
「仕事が自分に合わない」という声も、多く挙げられる退職理由のひとつです。しかし、実際に自分に合わない仕事なのか、モチベーションが下がってそのように感じてしまっているだけなのか、「退職したい」という気持ちが高まっているときほど冷静に判断するのが難しいとも考えられます。
オンボーディングで、業務内容だけでなく企業の理念や組織のミッション、求める役割や成果などを伝えることで、新人メンバーの成長を促すだけでなく働きがい・やりがいにも寄与できるでしょう。
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本項では、実際に多数の企業で実施されている具体的な施策例を5つ紹介します。
メンター制度とは、配属先の上司以外の別の部署の先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティ)に対して1対1でサポート支援をする制度のことです。
メンティは、仕事の評価を気にせずに、業務上の疑問に対する相談やキャリア形成の悩みなどを幅広く相談することができます。メンティだけでなくメンターの成長を促すことができるのもメンター制度のメリットのひとつです。
月に1回など、定期的にコミュニケーションの場を設けることで、「いつ相談すればいいかわからない」といった新入社員の不安を和らげることにつながります。
日々の業務をただ遂行しているだけでは、自分の成長を実感することができずにモチベーションが低下してしまう可能性があります。業務の進捗や課題に対してフィードバックを行い、スモールステップで目標達成を評価するよう心掛けましょう。
また、実施しているオンボ―ディングの内容について新人メンバーからの要望をヒアリングしたら、できるところは要望を活かして柔軟に改善していきましょう。
歓迎会の実施、ランチミーティングのように、メンバー同士が業務外で話す機会を設けている企業は多数あります。一度でも打ち解けて話をした相手には、些細な質問でも投げかけやすくなります。
その他、同時期に入社した同期や関係部署の担当者との横のつながりを持たせることでも、メンバー間のコミュニケーションの活性化を図れます。新人メンバーが、なるべく多くの情報や人脈を作れるような機会を設定できると良いでしょう。
漠然と「わからなければ聞いて」と伝えても、人によってはプレッシャーに感じてしまうことがあります。新しい環境に入ったばかりの新人メンバーであれば、なおさら「誰に何を聞けばいいのか」が分からずに質問を躊躇してしまうことも考えられます。
「この業務に関することは●●さんに聞く」というように明確に窓口を指定する他、毎日短い時間でも質問や相談をするための時間を作るのもおすすめです。
対面やメールよりも気軽にコメントのやりとりができるチャットツールを活用しましょう。
チャットツールは、上司や先輩社員が不在のときやリモートワークでのやり取りにとても便利です。こまめに連絡を取り合うことで、新人メンバーと既存メンバーのリレーションシップの構築も期待できます。
会議などが多く上司が頻繁にメンバーの様子を伺うことができなかったり、リモートワークでなかなか顔を合わせる機会がなかったりするケースもままあるでしょう。その場合は、チャットツールと連携してメンバーのコンディションを把握するのに役立つAIサービスもあるので、検討を進めるのも一案です。
スタートアップとは、短期間で急成長をする企業のことを指す言葉です。日本では起業を意味する言葉と解釈をされることもありますが、欧米では過去に例がないビジネスモデルで新規市場を開拓することで、短期間で急成長をする、というようなイノベーション企業を指すのが一般的です。
スタートアップでは変化が著しく起こります。利用者が増える、仕事が増える、そのために積極的に人を採用する…という場面もあるでしょう。このようなケースでは、オンボーディングは必要不可欠とも言えます。
どんなに経験値の高いメンバーであっても、前職と入社後の環境には必ず何等かの違いがあり、その違いに慣れるという過程が発生します。起業の成長スピードに追い付くためには、新人メンバーの入社後の不安や疑問、焦りを取り除き、早期に新しい環境に慣れてもらって最大のパフォーマンスを発揮してもらうことが重要です。
スタートアップとして成功する中で、創業から従業員が6倍に膨らんでも各メンバーが強みを活かして活躍している企業で実施している、中途入社メンバーへのオンボーディング事例を紹介します。
同社では、採用からオンボーディング期間、そして社風づくりまで一貫した取り組みで継続してサポートしあう独自の文化を形成。さまざまなバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの強みを活かして会社に欠かせない存在となるまでの成長を促しています。
Point① 採用時点で、メンバーの価値観と組織の価値観がマッチしているかを重視。入社後もオリエンテーションで会社としてのビジョンを、定期的にメンバー全員にメッセージを届けている
Point② オンボーディングは、人事担当が設計する全社的なプログラムと各チームが実施するプログラムの2種類を実施。入社から1~2カ月は新しい環境に慣れることを第一としたコミュニケーションスタンスで、毎日、質問・相談タイムを作るなど疑問点を解消しやすい環境づくりを徹底している
Point③ リモート環境においてもストレスが少なくコミュニケーションがとれるようチャットツールを複数利用。名指しで質問を投げかけなくても、コメントを投稿することでメンバーのうち誰かが回答するという組織風土が醸成されている
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早期離職を防ぐことによるコストダウンや従業員満足度の向上による人材の定着、そしてメンバー個々の成長を促すことによる組織としての生産性アップなど、オンボーディングを行うメリットはたくさんあります。
オンボーディングの施策は、ひとつひとつは難しくないように思えるかもしれませんが、人事だけでなく現場の既存メンバーの協力が必要となる点には注意が必要です。
新しく仲間になった新人メンバーを温かく迎えサポートしていく会社・組織の風土を醸成し結束力をあげていくことで、継続的に成長を続ける強い組織を目指しましょう。
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