新入社員を戦力として育てるために、必要不可欠な「新人教育」。業務を遂行するための技術を教えるだけでなく、新人への初期教育やマインドセットが成功するか・失敗するかによって、人材の定着率や自社に対するエンゲージメントの高さにも影響を及ぼします。
本記事では、効果的な新人教育を行うためのコツや気を付けたい注意点から、具体的なカリキュラムや教育手法の一例まで幅広く解説。 右も左もわからない新人を、なるべく早く自分で考え行動できる一人前の戦力として育成するためのポイントをまとめました。
新人教育とは、新入社員に自社で働くうえで必要となる知識や社会人としてのマナー、業務内容や仕事の進め方などを教えて、戦力となる人材として育てることを言います。
会社に入ったばかりの新人は、まだ戦力として数えることはできません。業務遂行のための知識やスキルを教えることで、即戦力となる人材を育て会社の戦力を底上げすることが新人教育の主な目的となります。
業務知識やスキルの習得のほか、新人教育の目的にはマインドの養成も含まれます。例えば、「これからこの会社で前向きに働いていくぞ」という会社への帰属意識、すなわちエンゲージメントの醸成や、組織の一員としてのコミュニケーション力やチームワークの養成、自ら進んで仕事を積極的に進められる人材になれるよう、チャレンジ精神や自律性を養うことなどが挙げられます。
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早い段階で新入社員の戦力化を実現し、一人の戦力として業務を任せることができるようになれば、一人当たりの業務負担を軽くすることが可能です。その分、別の業務に費やす時間がとれるため、チームや部署全体としての生産性をあげることができます。
また、新人教育を通じて新入社員の特性や経験・スキルを把握することは、適切な職種の見極めに役立ちます。適材適所の人材配置をすることで、メンバーの高いパフォーマンスを引き出すことができるでしょう。
かつては終身雇用が一般的だった日本でも、欧米の成果主義の導入もあり、「転職が当たり前」という風潮になりつつあります。2019年の転職者数は351万人と過去最多を記録。同調査の報道資料によると、「よりよい条件の仕事を探すため」に前職を離職した転職者、正規雇用間の転職者が増加しています。
【出典】令和2年(2020)労働力調査結果(総務省統計局)
新人教育の中で、自社で働くことや仕事に対する誇りを持ってもらい、従業員としてのエンゲージメントの醸成をすることで、早期離職を防ぐことにつながります。
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新人教育は、教える側には得られるものが少ないと感じることがあるかもしれません。しかし、新人の指導を通して、教える側にも学ぶ点は数多くあります。
新人教育をすることは、指導者としての経験値になるだけでなく、これまでの仕事のやり方を客観的に見る機会になります。新人に業務を教えるための準備やOJTの中で、より効率的な方法を見つける こともあるでしょう。また、世代や経歴の異なる社員の考え方に触れることで、新しい視点を取り入れる きっかけとなることもあります。
チームのメンバーに新人教育を任せることで、教える側のメンバーのスキルアップや業務改善が期待できるのも、新人教育のメリットの一つと言えるでしょう。
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本項では、新人教育の場面でよくある“失敗例”をいくつかご紹介します。長く社内にいると気が付きにくく無意識に行ってしまうこともあるため、事前に意識して気を付けたいこととして、チーム内で共有しておきましょう。
新人に仕事の説明をする際に、ビジネス用語や専門用語を多用すると、正しく内容が伝わりません。 同様に、業界特有の業界用語や、自社内でのみ使っている特有な言葉にも注意が必要です。
新人の立場では、教えてくれる先輩の話を遮り、何度も質問をするのは勇気のいることです。わからないままに間違った理解をしてしまう、本当に覚えてほしい話の骨子よりも言葉の意味に意識を集中してしまうなど、本末転倒な結果となってしまう場合もあります。
例えば、「PDCA」や「リードタイム」「マージン」など、経験者にとっては当たり前に使っている言葉でも、新人には馴染みのない言葉である可能性があります。なるべく、分かりやすい言葉に言い換える、言葉の意味を知っているかを確認する など、相手に合わせながら説明をするようにしましょう。
どんなに気を付けていても、日頃から使っている言葉はつい無意識に口をついて出やすいものです。説明の合間にこまめに新人から質問する時間を設け、不明点・疑問点を訊きやすい状況をつくると良いでしょう。
「なぜこの仕事をする必要があるのか」という業務の目的や背景を伝えずに、ただタスクとして概要や作業手順だけを伝えるのでは適切な教育とは言えません。
目的や背景を知らないままだと、新人にとっては自分が取り組む業務の価値や必要性を十分に感じられず、“やらされている”と感じてしまい、モチベーションの低下を招く恐れもあります。
例えば、「記録をつける」というタスクがあれば、「記録を正しくつけておくことで、どんなメリットがあるのか」「記録をつけなければ、どんなマイナスがあるのか」ということまで伝えるようにしましょう。タスクの意味や必要性を知ることで、「忘れないようにそのタスクを行わなければならない」という責任感が芽生え、タスクの実行漏れを防ごうという意識につながります。
また、新人が業務を一人で行うようになり、何か不測の事態が起きた場合にも、目的や背景を理解していれば、自分で代替案を考える など自発的に動きやすくなるでしょう。
組織としての意向を押し付けるようにして仕事を依頼するのではなく、新人個人の将来のビジョンやキャリア形成への配慮をする ことも忘れないようにしましょう。
例えば、会社として達成したい数値目標がある場合に、ただ「会社のために頑張ろう」というのではなく、「あなたの成長のために役に立つ」というように、仕事の成果が本人にどのようなリターンを返すのかを言葉にして伝えることが大切です。
ビジネスに関連する心理学用語の一つに、「心理的安全性(psychological safety)」という言葉があります。心理的安全性とは、自分の発言が他者から非難されたり、罰せられたりする心配のない状態、組織の中で自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態のことを言います。
働きやすい職場の環境づくりのために、日頃からメンバーの心理的安全性を担保しておきたいところですが、緊張感の高い状態で入社してくる新人を迎える前には、今一度コミュニケーションの取りやすい環境が整っているかを振り返ってみましょう。
例えば、メンバーが全員忙しすぎて誰も新人の面倒を見ることができず、周囲とのコミュニケーションが少ない環境では、新人は 「わからないことや疑問点があっても質問がしづらい」 と感じてしまいます。さらに、「自分は戦力として認められていない」「周囲の邪魔をしているのではないか」という後ろめたさを感じたり、最初はしても仕方のない失敗に落ち込んだ気持ちを一人で抱えてしまったりして、ストレスをため込んでしまう こともあります。
メンバーを集めたランチ会など業務から少し離れた場所で雑談や対話ができる機会をつくる、ディスカッションの場では発言の少ない人の意見を満遍なく聞くなど、入ったばかりのメンバーでも自分の考えや気持ちを口にしやすい雰囲気づくり を心掛けましょう。
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新人が仕事をしやすい環境をつくるためには、実務面と精神面の双方向でのサポート体制を整える必要があります。
実務面では、「適正な教育期間をとる」「マニュアルを作成する」などが挙げられます。マニュアルを作成する際には、何も考えずにただマニュアルに記載されていることを作業として実行するだけの社員に育ててしまわないように、全体像や業務の目的とゴールを盛り込むようにしましょう。
【マニュアルに記載すること】
・全体像:該当する作業が全体の流れのどこに当たるのか
・目的:何のためにするのか
・ゴール:何を実現できればいいのか
・作業手順:どのようにして作業を行うか
精神面では、新人が遠慮せずに気軽に質問や相談ができるような職場の環境づくりはもちろん、受けた質問や報告に対しての回答は必ず提示するようにしましょう。
チーム内でチャレンジすることを褒める・受け入れる雰囲気をつくっていくことも重要です。「成長して欲しい」という想いからであっても、フィードバックばかりで新人の行動を認めることをしなければ、モチベーションが下がってしまう要因にもなり得ます。仮に失敗をしたとしてもチャレンジしたことを褒めて、解決方法や次回に活かすためのアドバイスをするなど、バランスをとったコミュニケーションを心掛けましょう。
新人個人が持っている目標や将来望んでいるキャリアプランを把握し、その実現のために役に立つ仕事をしてもらうことができれば、これから行っていく仕事に対して動機付けをすることができます。
会社のためだけでなく、自分のためにもなると思えば、スキルを磨いていこうという積極性が出てくるでしょう。また、社員のキャリア形成に協力的な会社に対するエンゲージメントの向上や人材の定着も期待できます。
ただし、いきなり将来のビジョンを尋ねても、すぐに回答をするのは難しいため、面談など定期的にマンツーマンで話す時間をつくったり、会社としてキャリアプラン研修に参加する機会を与えたりといったフォローも併せて行いましょう。
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新人教育をする中で、「なぜその仕事をお願いしているのか」「組織として何を求めているのか」をしっかりと説明するようにします。
誰かから期待されることや承認されることは、モチベーションアップにつながります。 モチベーションが上がることで、主体的に仕事を進めるようになり、即戦力としての成長が期待できます。
新しい仕事を始めたばかりの新人の頃は、業務の全体像や自己啓発にまで目を向ける余裕がないことが多いものです。業務の重要性や得られる成果、新人自身のキャリアステップに紐づく話は積極的に伝えてあげましょう。
何かの問題に直面したときには、すぐに答えとなる解決方法を与えるのではなく、解決のためのヒントだけを出して新人に考える時間を与えるようにしましょう。
経験・知識が浅いからといって、問題や悩みに対してすぐに答えを与えてしまう教育では、自分で考えて行動する力を養うことができません。ヒントをもとに自ら考え、自分の力で問題を解決させることで、ただ指示を待つだけでなく自主的に考え行動できる人材への成長を促すことができます。
ただし、本当に行き詰っているようであれば、適宜フォローをしてあげましょう。
新人とのコミュニケーションをとるためにも、定期的なフィードバックは必要不可欠です。新人が業務を遂行する中で「何が良かったか」「より良い成果を出すために工夫できたことはあったか」などを話し合い、次に活かせるようなアドバイスをするようにしましょう。
フィードバックをする際には、一方的な「批判」や「説教」にならないように注意が必要です。基本的には、新人からの報告をベースに話を進行し、今後の仕事に活かせる改善点や気づきとなる視点を論理的に説明すると良いでしょう。
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一口に「新人教育」と言っても、対象となる新入社員が新卒入社なのか、中途入社なのか。中途入社の場合は、似たような業務経験があるのか、ないのか。このように、新人教育を行う相手のスキルによって適したカリキュラムは異なります。本項では、主に新入社員研修で導入されるカリキュラムの一例を紹介します。
組織の一員として先輩社員や上司と共通の目標を持って働いてもらうためには、改めて自社の企業理念や商品やサービス概要といった事業内容について理解を深めてもらう必要があります。
コンプライアンスや情報セキュリティ、就業規則・行動規範などの社内の規則やルールを学び、仕事へのスタンスを共通認識として持ってもらうことも重要なポイントとなります。
【主な教育手法】
人事部による座学研修など
簡単なゲームなどを通してコミュニケーションをとるなど、社員同士の関係構築やチームビルディングを目的としたレクリエーションを実施するケースもあります。
【主な教育手法】
人事部によるレクリエーションなど
社会人であれば身に着けておきたいビジネスマナーやビジネスルールを教える研修カリキュラムもあります。
例えば、電話応対や来客対応、名刺交換の仕方といった基本的なビジネスマナーのほか、上司に報告・連絡・相談することの重要性や一般的なビジネス用語など仕事をするうえで必要なマナーやルールを覚えてもらいます。社内研修であれば、現場でのコミュニケーションをスムーズにするために、よく使われる社内用語を覚えてもらうのも一案です。
【主な教育手法】
人事部による座学研修
実践的に学ぶロールプレイやケーススタディ
外部機関が行っている社外研修
など
仕事を進めていくうえで人との関わりを避けて通れない業務は数多くあります。同僚、上司、ビジネスパートナー、顧客などと良い関係性を築いていくための対話力の上達を目指すカリキュラムです。
【主な教育手法】
実践的に学ぶロールプレイやケーススタディ
グループ単位で課題に取り組むグループワーク
外部機関が行っている社外研修
など
論理的に物事を考える思考法である「ロジカルシンキング」も、ビジネスパーソンに求められるスキルの一つです。ロジカルシンキングの基礎を学ぶ研修を新人教育のカリキュラムに取り入れている企業もあります。
【主な教育手法】
実践的に学ぶロールプレイやケーススタディ
外部機関が行っている社外研修
など
なるべく早く即戦力として活躍してもらうために、仕事に必要な専門的な知識やスキルを身に着けてもらう ことが何よりも重要です。配属先により必要となる知識・スキルが異なるため、新入社員の配属が決まった後に実施されることが多いでしょう。
研修でインプットしたことをOJTでアウトプットさせることでスキルの習得を図ります。この時にマニュアルやチェックシートといったツールを整備しておくことで、仕事に慣れていない新人でも業務を遂行しやすく なるだけでなく、自習にも役立つためレクチャーにかける時間を短縮することができます。
【主な教育手法】
外部機関が行っている社外研修
実務を通じて行うOJT研修
マニュアル・チェックシートの整備
など
一通りの研修が終わった後に、研修で学んだことを定着させるためにフォローアップ研修を実施するケースもあります。フォローアップ研修では、新入社員が抱える不安やストレスをフォローする役割を担っていることも多い ようです。
【主な教育手法】
新入社員同士のグループディスカッション
メンター制度など第三者との面談・ミーティング
など
最後に、新人教育のカリキュラムを作成する際のポイントを5つにまとめました。
前述のとおり、これまでの経験値によって教育が必要な範囲は異なります。教育内容に一貫性を持つことは大切ですが、以前に新入社員を迎えた時の研修カリキュラムそのままで、新しく入ってくる新入社員に適しているとは限りません。入ってくる新人のスキルを確認したうえで、研修の目的・ゴールを見据えてカリキュラムや研修期間を策定すると良いでしょう。
カリキュラムや教育手法は、実際にOJTで新人教育にあたる先輩社員とすり合わせを行い、実務で必要な知識・スキルと乖離がないか?教えるべき事柄に漏れがないか?を確認するのも一つの方法です。チームメンバーを巻き込んで新人を受け入れる準備を進めることで、ウェルカムムードをつくっていきましょう。
新入社員は慣れない環境に身を置いて、わからないことだらけの中で仕事を覚え、職場の人間関係を一から構築していくことになります。それだけでも、ストレスがかかりやすく疲れを感じやすい状況であることは想像に難くありません。
迎え入れた新人は今どんな課題を抱えているのか、ストレスによるモチベーションの低下やメンタル不調はないか、定期的にコンディションを確認し、働きやすい環境づくりに努めましょう。
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