多岐に渡る職務経験を積ませる「ジョブローテーション制度」を導入する企業が増えてきています。
なぜ、企業でジョブローテーション制度の導入がされているのでしょうか?どのような効果が見込めるのでしょうか?
ジョブローテーションにはメリットとデメリットがあり、制度の導入が向いている企業と向いていない企業に分かれます。したがって、制度導入して効果を得るためにもジョブローテーションについて学んでおきましょう。
今回は、ジョブローテーションを採用するメリットから導入方法まで詳しく解説します。
ジョブローテーションとは、社員の能力を向上させることを目的として異動させることをいいます。 企業全体の業務の流れが理解できる社員を育成したり、幹部候補を育成したりするために実施します。また、社員の適正を見極めるために実施することも多いです。 具体的な方法を説明すると、短くて半年程度、長くて5年程度という期間で、部門間や部門内を異動していきます。
部門間での異動:営業、人事、総務、カスタマーサポートなど複数の部署を経験する
部門内での異動:小売店などでレジ、売り場、倉庫管理など複数の業務を経験する
このように、社員の成長を促す異動をジョブローテーションと呼びます。
ジョブローテーションは、社員を成長させるために、部署や職務を変更させる制度だと述べました。人材育成を目的とした前向きな異動です。その一方で、人事異動は組織のために、部署や職務を変更させる制度をいいます。人事異動は、定年退職や解雇なども含まれており、経営上の必要行為として行われます。
ジョブローテーションは、企業が適切な人材を選定して実施する ものです。適材適所の人材配置や業務の属人化の防止を目的に行います。その一方で、社内公募は、会社が必要とするポストを公募して実施するものとなります。社内公募は、従業員のモチベーションを上げることを目的に行われるケースが多いです。
ジョブローテーションは、大企業を中心に実施されています。その理由は、大企業ではジェネラリストを育成して、人材を有効活用していくためです。とくに、終身雇用制度がある大企業で導入されています。
独立行政法人 労働政策研究・研究機構の独自調査「企業の転勤の実態に関する調査」によると、ジョブローテーションの実施状況は、以下の通りです。
【従業員数別 ジョブローテーションの実施状況】
300人未満:37.3%
300人~500人未満:51.3%
500人~1,000人未満:57.2%
1,000人以上:70.3%
調査結果からも、従業員数が多い大企業での実施率が高いことが分かります。
ジョブローテーションを採用するメリットは、以下の通りです。
ジョブローテーションを採用して、社内の人の動きを活性化させれば、企業の新陳代謝を促せます。 その理由は、さまざまな部署や職務を経験させることで、視野が広げられるためです。また、部署のメンバーが変われば、良い意味での緊張感が与えられます。 職務を固定してしまうと、自分の所属部署のメリットがあるかないかで判断して働いてしまいがちです。その結果、他部門連携が上手くいかなくなります。このような問題も、企業の新陳代謝を促すことで解決できます。
ジョブローテーションを採用すれば、社員の適正が見極めやすくなります。 さまざまな部署、職務を経験して初めて分かる得意な分野が分かるようになるためです。このような実施結果から、社員の適正に見合う職務に配属させられることが、ジョブローテーションのメリットです。
適材適所の人事配置を行えば、新入社員の早期退職の防止にも繋げられます。新入社員は入社動機に合致する業務がどれなのか、具体的に把握できていないケースが多いです。そのため、さまざまな部署や職務を経験させて適材適所の職務を見つけてあげましょう。
ジョブローテーションを採用すれば、企業全体の業務を俯瞰視して経営を考えていける幹部候補が育成できます。幹部として働くためには、あらゆる部門を経験し社内業務を把握しなければいけません。そのため、経営中枢に優秀な人材を登用するために実施されます。
また、幹部を目指している昇進に意欲的な社員のモチベーション向上のために実施されるケースも多いです。
ジョブローテーションを採用すれば、所属している部署を超えた社内ネットワークが構築できます。 なぜなら、異動先の業務を通じて、新たな人間関係が構築できるためです。
社内ネットワークを構築しておけば、プロジェクトで困ったときに、詳しい人にアドバイスしてもらえます。また、部門間連携が取りやすくなり、円滑に業務を進めていけます。
ジョブローテーションを採用して、社員に多くの部署や職務を経験させれば、業務の属人化を防止できます。 その理由は、社員に幅広い業務を経験させることで、特定の人にしか分からない業務を失くせるため です。
会社全体の業務を理解しているジェネラリストを育成しておけば、どこかの部署で欠員が発生しても、欠員補充がしやすくなります。 このように、業務の属人化を防止すれば、欠員発生時に慌てずに済みます。このような業務の属人化の防止を目的として、実施されることもあります。
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ジョブローテーションを採用するデメリットは、以下の通りです。
ジョブローテーションは、決めた期間で部署や職務を異動していきます。期間は短くて半年、長くて5年です。このような短い期間で部署や職務を変えていくため、基礎的なスキルしか磨けません。そのため、高度な知識や技術を習得するスペシャリストの育成には向いていません。
専門知識が必要なスペシャリストを目指したい社員は、制度に不満を持つ恐れがあります。その結果、希望するキャリアが磨けないと不満を募らせ、離職してしまう恐れがあります。
ジョブローテーションで異動させる場合は、マニュアルを整備したり、足りない知識や技術を教えたりしなければいけません。 異動の度に、対象者を教育しなければいけないため、教育コストが高くなります。
また、ジョブローテーションを実施した社員が退職してしまうと、教育コストが無駄になってしまいます。 退職により大きな損失が出る恐れがあるため、じっくり計画を立てて制度を導入しましょう。
ジョブローテーションは新たな業務しなければいけないため、一時的にパフォーマンスが落ちます。 また、所属部署で戦力になっていた社員を異動させた場合、元部署の業績が落ちてしまうこともあります。 その結果、元部署に所属している社員が、不満を募らせてしまう恐れもあります。社員のモチベーションが落ちると生産性も落ちていくため注意してください。
ジョブローテーションを実施することで、パフォーマンスが落ちることを想定しておくことが大切です。
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ジョブローテーションが向いている企業は、以下のような特徴があります。
・終身雇用制度を導入している企業
・企業統合をした企業
・部署連携してサービス提供を行う企業
ここでは、なぜ、ジョブローテーションに向いている企業なのか詳しく解説していきます。
終身雇用制度を導入しており、中長期的に人材を育てていきたいと考えている企業も、ジョブローテーションが向いています。
その理由は、幅広い業務ができるジェネラリストを育成しておけば、人員欠員が出たときに人材補充に困らなくなるためです。 また、業務の属人化を防止でき、特定の担当者が退職して業務に支障が出るという状況を無くせます。
終身雇用の社員を有効活用しやすくなるため、終身雇用制度とジョブローテーションは相性が良いです。
M&Aなど異なる企業を統合した場合、社員全体に新たな文化を浸透させなければいけません。企業統合をした企業がジョブローテーションを採用すれば、統合した企業の事業内容などを理解してもらえるようになり、双方の企業文化が浸透しやすくなります。
企業統合以外にも、複数の支店や店舗が存在する企業の文化を浸透させたい場合にも効果を発揮します。
部署連携してサービス提供を行う企業では、部署を超えたコミュニケーションが必要です。
ジョブローテーションを実施して、さまざまな部署を経験し人脈を築いておけば、他部署との連携が円滑に進みやすくなります。 そのため、事業展開する上で部署間連携が必要になるサービスを提供している企業は、ジョブローテーションに適しています。
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ジョブローテーションが向いていない企業は、以下のような特徴があります。
・スペシャリストを求めている企業
・プロジェクト期間が長い企業
・職種や部署によって待遇の差がある企業
ここでは、なぜ、ジョブローテーションに向いていない企業なのか詳しく解説していきます。
高い専門スキルを持つスペシャリストを求めている企業は、ジョブローテーションに向いていません。その理由は、決められた期間で部署や職務を異動させていくと、高度の知識や技術を習得しにくくなるためです。
特定の分野のスペシャリストを目指したい社員の場合、さまざまな職務を経験するのは遠回りに感じてしまう恐れがあります。遠回りだと感じて不満を募ると、スペシャリスト志向の優秀な人材が離職してしまうため注意してください。
プロジェクト進行中に人事異動すると、業務に支障が出てしまいます。また、取引先に混乱を与えてしまい、迷惑をかけてしまうことになります。そのため、1つのプロジェクト期間が長い企業はジョブローテーションに向いていません。プロジェクト終了後など区切りの良いタイミングでの配置転換するようにしましょう。
職種や部署によって待遇に差が出る企業の場合、ジョブローテーションを採用すると不利益が出る恐れがあります。 例えば、待遇に差がある部署に異動させると、所属前と所属後のどちらの給与体系を採用するか迷いが生じます。
所属先の人と給与の差があると、法的な問題が起きることもあるでしょう。 そのため、職種や部署によって待遇の差がある企業は、ジョブローテーションが採用しにくいです。
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ジョブローテーションを導入する際の手順は以下の通りです。
●対象者を選定する
●配属先や実施期間を決定する
●対象者へ通達する
●ジョブローテーションを実施する
ここでは、各手順について詳しく解説します。
まずは、ジョブローテーションの対象者を選定していきます。
対象者を決める前に、実施する目的を設定しましょう。その理由は、目的を明確にしておかなければ、理想の成果が見込めなくなるためです。
その後、対象者の志向や能力などを踏まえて、適材な人を選んでいきましょう。会社側の意向だけで、対象者を決めてしまうと、社員が不満を抱いてしまいます。そのため、誰を対象にするか良く吟味してください。
ジョブローテーションは、会社の都合を優先した異動ではなく、社員育成を目的とした異動です。そのため、各担当者の配属先や実施期間を具体的に決めていきましょう。
対象者のキャリア形成に役立つように計画して、カリキュラム内容を含め検討していきます。 具体的な内容を決めておくことで、対象者への通達がスムーズに行えるようになります。
次に、対象者へジョブローテーションに関する通達をします。通達をする際は、異動する意味や目的、今後のキャリアイメージを明確に伝えましょう。
これらを不透明にしたままジョブローテーションを実施すると、意義を感じられずに、社員のモチベーションが落ちてしまいます。 そのため、面談を行い、ジョブローテーションを実施する理由を具体的に説明しましょう。
ジョブローテーションを実施する際は、社員のフォローをするようにしましょう。その理由は、新しい職場環境や業務に携わると、不安や緊張しやすくなるためです。 不安や緊張によって、社員が体調を落としてしまうと、離職に繋がり損失が出てしまいます。そのため、企業は社員のサポートをしながら、ジョブローテーションを実施していく必要があります。
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ジョブローテーションを実施する際は、社員に不満を与えたり、不安を抱かせたりしない工夫が必要です。 企業側は、どのようなサポートをすれば良いのでしょうか?ここでは、ジョブローテーションを実施する際のポイントをご紹介します。
候補者が、ジェネラリスト志向かスペシャリスト志向かを見極めてください。
幅広い知識や人脈を活かせるジェネラリスト思考であれば、ジョブローテーションで効果を発揮します。しかし、スペシャリスト志向だと、ジョブローテーションで深い知識や技術が磨けなくなり、不満を持たれてしまいます。そのため、人事異動させる候補者を選定するときは、対象者がジェネラリスト志向なのか、スペシャリスト志向なのかを良く見極めましょう。
ジョブローテーションを実施する前に、どこかのタイミングで候補者と面談を行い、社員の意向や能力と会社の目的と擦り合わせましょう。
双方の意向を擦り合わせれば、対象者が前向きに取り組んでくれるようになります。
面談時にはジョブローテーションの目的だけでなく、対象者に対する期待やキャリア形成するための見通しを一緒に考えてあげましょう。Win-Winの関係を意識したジョブローテーションを行えば、対象者のモチベーションを上げていけます。
ジョブローテーションを実施する場合は、サーベイなどを利用し社員の健康状態を把握するようにしましょう。その理由は、新しい部署や職務を経験させると、社員に不安や緊張を与えることになるためです。
仕事内容も把握できておらず、人間関係も構築されていない新しい環境に行きたいと思う人は少ないものです。想像していた仕事と現実の仕事が異なれば、ストレスを感じてしまいます。
そのため、社員の健康状態を把握して、サポートできる体制を整えましょう。 従業員サーベイを利用すれば、コミュニケーションツールの利用状況から、社員の健康状態が把握できるようになります。健康状態が悪い社員に対して、速やかにフォローするために、従業員サーベイを活用しましょう。
ジョブローテーションを採用すれば、適材適所の人材配置が行えます。 また、幅広い業務を習得させておけば、欠員が出た場合の人員補充がしやすくなります。そのため、ジョブローテーションは、中長期で人材育成したい企業に適しているのです。
今回は、ジョブローテーションの導入方法まで具体的に説明しました。ぜひ、この記事を参考にしながら、ジョブローテーションを導入してみてください。
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