近年、注目を集めるダイバーシティ。「多様性」という意味を持つ「ダイバーシティ」の考え方は、世界有数の多民族国家であるアメリカで生まれ、社会的少数派であるマイノリティや女性への差別のない平等な社会を求める動きの中で、世界的に広まっていきました。世の中的に「働き方改革」への関心が高まる、日本においてもダイバーシティの推進を経営計画に掲げる企業が増えてきています。
本記事では、ダイバーシティの本来の意味や目的、企業としてダイバーシティ経営が求められる社会的な背景について解説。さらに、実際に組織としてダイバーシティを推進していくにあたってのポイントや社内外から評価されている企業の取り組み事例などを紹介します。
【主なトピック】
【こんな方におすすめ】
ダイバーシティ(Diversity)とは、直訳すると「多様性」を意味します。人種、性別、年齢、学歴、そして価値観や趣味嗜好など、一人一人異なる個人が集まって社会は構成されています。このような様々な個性を尊重し、偏見や差別のない社会を求める多くの運動の中で、ダイバーシティという概念が生まれ広まっていきました。
ダイバーシティは、表層的なものと深層的なもの、大きく2種の属性に分類されると言われています。
1.表層的ダイバーシティ
表層的ダイバーシティとは、人々が生来持っているもの、外から見て分かりやすい多様性のことを指します。
<例>人種、性別、年齢、障がいの有無など
2.深層的ダイバーシティ
深層的ダイバーシティとは、人々の内面的なもの、外から見て分かりにくい多様性のことを指します。
<例>宗教、信念、価値観、ライフスタイルなど
ダイバーシティと言うと、目に見えやすい国籍や性別の違いなどに注目しがちになりますが、それだけではなく個人の思考や価値観といった目に見えないものを含めているということを覚えておきましょう。
経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
【引用】経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」
日本社会において、企業としてダイバーシティ経営の推進が重要であると言われている理由として以下のような社会的背景があると考えられています。ここでは4つの要因に分けて解説します。
1.労働力人口の減少
2.ビジネスのグローバル化
3.顧客の価値の多様化
4.働き方の多様化
それぞれについて、なぜ企業としてダイバーシティ経営を推進していく必要があるのか詳しく見ていきましょう。
少子高齢化による労働人口の減少によって、日本では将来的に深刻な労働力不足となることが予測されています。
2060年には日本の総人口に占める労働力人口の割合が約44%に低下、働く人よりも支えられる人が多くなるというデータもあります。
【参考】「選択する未来 ‐人口推計から見えてくる未来像‐」(3)人口急減・超高齢化の問題点/ 平成27年(2015年)10月28日発行
企業においても、労働力・人材の確保は非常に重要な課題のひとつです。事業を進めたくても働き手がいなければ、事業を継続することができないという事態にもなりかねません。
ダイバーシティの考えに基づいて、シニア層、外国人、障がい者など幅広い人材が活躍できる環境を整えることが、貴重な労働力・人材確保につながります。
日本企業の海外でのビジネス展開や、海外企業の日本市場への進出など、ビジネスのグローバル化は近年急速に加速しています。
海外に拠点を作るのであれば、現地での人材を採用するケースが多いでしょう。また、海外市場に進出するのであれば現地の消費者ニーズを抑えることが事業の成功を左右します。
このような海外事業を成功に導くためには、言語力や異文化への理解、コミュニケーション能力を持つグローバル人材が必要不可欠です。
多様な文化や価値観を受容するダイバーシティを推進することで、人種や国籍を問わず、様々なバックグラウンドを持つ人材が働きやすくなるでしょう。
日本国内の消費市場はすでに成熟期を迎え、顧客となる消費者ニーズの多様化も進んでいます。
消費行動の変化としては、“モノ消費からコト消費”と言われるように、「機能的な商品を所有するために買う」のではなく、「商品・サービスを通して得られる体験を買う」という消費傾向のシフトが挙げられます。
また、多くの国内企業が目を向けているように、訪日外国人のインバウンド消費も無視することはできません。
このような消費行動の多様化に対応し、顧客ニーズを先取りして応えていくためには、多様な人材を受け入れ、創造性や柔軟性のある企業戦略を展開していくことが重要となるでしょう。
時代の変化とともに、日本社会における雇用や働き方に対する意識も変化してきました。
終身雇用が当たり前だった時代は終わり、若年層を中心に労働者の転職志向は増加傾向にあります。人材の流動性が活発である現代社会においては、企業が労働者を選ぶだけでなく、労働者が企業を選ぶ時代であるとも考えられます。
また、年功序列から成果主義への移り変わりや共働き世帯の増加により、働きがいや仕事と私生活の調和(ワークライフバランス)が求められるようになりました。
このような動きの中で重要視されるのが、企業としてのダイバーシティへの取り組みです。仕事に対する価値観の相違を認め、個々に異なるワークライフバランスに配慮した職場環境を用意することで、労働者から選ばれる企業として発展していくことができるでしょう。
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組織としてダイバーシティを根付かせるために大切なのは、ダイバーシティ&インクルージョンを推進することです。
ダイバーシティは直訳すると「多様性」、インクルージョンは直訳すると「包括・包含」「一体性」です。ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様な人材がその能力を発揮し活躍できる状態であること、またはそのような状態を目指すための取り組みを指す言葉として使われています。
日本におけるダイバーシティ推進は、労働力人口の減少へのリスク回避を背景とした、女性の活躍推進や外国人労働者の採用などの表層的ダイバーシティに着目した取り組みが先行してきました。
しかし、ダイバーシティ推進の本来の目的は、多様な人材がそれぞれに持つ強みを最大限に活かすことによって、新しい価値を生み出し経営成果を実現することにあります。たとえ、多様な人材が「存在」していても、「活躍」する場がなければ、意味がありません。
一説では、表層的ダイバーシティよりも、個人の思考や価値観などの深層的ダイバーシティの方が、経営成果につながりやすいとも言われています。一人一人の「個」の違いを尊重し、自分らしく活躍する機会を創出することで、ダイバーシティが新しい価値(イノベーション)を生み出し、経営成果を実現することができるのです。
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それでは、ダイバーシティ&インクルージョンを推進するために、どのようにして多様な人材が活躍する組織づくりを進めていけばよいのかを具体的に見ていきましょう。
前提として必要不可欠なのは、ダイバーシティ推進の本来の目的を組織で働くメンバーの共通認識として浸透させることです。
様々な考えや価値観を持つ人たちの集まりの中では、対立や分断といったことが起こる可能性もあります。そのリスクを回避するためにも、「なぜ、ダイバーシティを推進するのか」という目的やメリット、目指すべき姿をしっかりと伝え、メンバー同士が互いの違いを尊重し、受け入れる組織風土の醸成を促しましょう。
自分自身では気づいていない物事の捉え方の偏りのことを、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」と言います。アンコンシャス・バイアスは、過去の経験や習慣などから、瞬間的に生じる連想プロセスです。
これは誰もが持っているもので決して良い・悪いというものではありませんが、留意しなければ多様性を受容する障壁となってしまう可能性があります。研修を導入するなど、アンコンシャス・バイアスの知識、対処法を身につける機会を作るようにしましょう。
<アンコンシャス・バイアスの一例>
組織の中で多様な人材それぞれが活躍するためには、業務における意志決定や評価の透明性を高くしなければいけません。
例えば、日本企業にありがちな「空気を読む」「暗黙の了解」のような組織風土は、ダイバーシティ推進においてトラブルを招く可能性もあるため注意が必要です。
情報やルール、評価軸を誰の目から見ても誤解のないように明文化することで、メンバーは組織に対する信頼感が増し、自分の意見を出しやすくなります。様々な価値観を持つ人が、等しく納得感を持てるように、公正な組織運営を心掛けましょう。
業務における意思決定のプロセスには、属性を問わずメンバーの意見を積極的に聞くようにしましょう。多様な考え方を組織改善に活かすきっかけとなるだけでなく、組織運営の意思決定に参画することでメンバーの満足感や積極性のアップにもつながります。
ただし、複数人の前で自己主張をするのが苦手なタイプのメンバーでも意見を出しやすくするために、相談フォームやチャットツールなどを用意するなどの配慮をすることも大切です。
また、定期的に異なる役割のメンバー同士の意見交換の場を作るなど、役職や肩書を気にせずに活発なコミュニケーションができるような、風通しの良い職場環境を整えていきましょう。
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ワークライフバランスとは、単に「決められた時間以外に仕事をしないこと」「仕事時間と生活時間を切り分け、均等な比率にすること」というように、画一的に仕事と生活を相反するとみなすものではありません。
ワークライフバランスの本来の意味は、仕事と私生活の両方を充実させ、お互いに好循環を生み出すことです。仕事と私生活の適したバランスは、個々により異なります。決められた時間の中で集中して業務を行いたいメンバーもいれば、出産や育児、介護などのためにフルタイムでは働きづらいメンバーもいるでしょう。
多様な働き方を推進する際には、組織としてワークライフバランスを考慮し、メンバーごとに異なる様々なライフイベントや価値観に対応できるような体制を整えましょう。
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最後に、ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業の先進的な取り組み事例を紹介します。
経済産業省が策定した『ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン』に沿って、中長期的に企業価値を生み出す取り組みを続ける企業として、令和2年(2020年)に『100選プライム』に選定された2社のうち1社。
【経営課題】
「社会課題を解決する企業」として、イノベーションを創出するためにその源泉となる知見・経験を社員の多様性から引き出す
【人材戦略】
社員の考え方や価値観を形作る様々な「役割」に視点を当てる事で価値創造を生み出す適切な人材ポートフォリオの実現を企図
【具体的な取り組みの一例】
<経営戦略への取り組み>
<推進体制の構築>
<ガバナンスの改革>
<全社的な環境・ルールの整備>
<管理職の行動・意識改革>
<従業員の行動・意識改革>
<労働市場・資本市場への情報開示と対話>
【ダイバーシティ経営による成果】
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2019年、厚生労働省は「働き方改革」の基本的な考え方は、「働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」であると発表しました。この定義から分かるように、「働き方改革」と「ダイバーシティ経営」は密接に関係しています。
働き方改革やダイバーシティ推進を進めることで、従業員が仕事に対して感じる充実感や満足度を表すワークエンゲージメントの向上や優秀な人材の流出を防ぐリテンション効果も期待できます。
多様性を受け入れ、メンバー個々が自分らしく活躍できる職場環境を目指していきましょう。
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