令和3年(2021年)の厚生労働省の調査によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は53.3%でした。主なストレスの内容は多いものから「仕事の量」43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」33.7%、「仕事の質」が33.6%となっています。
※【出典】令和3年(2021年)「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」
仕事に対するストレスを感じている人は、実に半数以上という近年の状況を受け、企業の従業員へのメンタルヘルス対策の必要性は年々増加傾向にあります。このような風潮の中、従業員が抱える仕事に対するストレスの解消・軽減のために「コーピング」に注目し、対策として取り入れる企業も数多くあります。
ストレスに対する問題解決のための対処法である「コーピング」とは、一体どのようなものなのでしょうか。本記事では、「コーピングとは何か?なぜストレスに効果的なのか?」といった心理学的な背景から、「どのようにしてコーピングを取り入れれば良いか?」という具体的な実例まで、わかりやすく解説します。
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コーピングとは、「問題を対処する」という意味で、メンタルヘルス用語では「ストレスに対処するための行動」を意味します。ストレスに対処する方法全般を指し「ストレスコーピング」と呼ぶこともあります。
心理学者のラザルスらが提唱した心理的ストレスモデルによると、ストレスには何かしらの外部からの刺激や個人内の変化などの要因があると考えられています。このストレス要因のことを「ストレッサー」と言います。
人はストレスを感じると心理面・行動面・身体面でストレス反応が表れると言われています。心理面では、怒りや悲しみ、憂鬱、不安や緊張といった感情が生まれ、気持ちの切り替えがしづらくなったり、幸福感や自己肯定感を感じづらくなったりといった変化が見られます。行動面では、人との争いがちになる、過食などの食習慣への影響、喫煙や飲酒などの生活習慣への影響などが考えられます。このような行動変化が身体に影響を与えるだけでなく、ストレスからくる自律神経などの乱れから動悸、過呼吸などの症状が見られることもあります。これらのストレス反応は、ストレッサーに対する本能的な防衛反応とも言われています。
ストレッサーをストレスの要因であると認知するには、2段階のプロセスがあると言われています。
一次的認知評価
一次的認知評価とは、ストレス要因にさらされたときにそれが自分にどれくらい害をもたらすか?ストレスとなりうるか?を判断するプロセスのことです。このときに、不安やイライラなどのネガティブな感情が喚起されると言われています。
例えば、「やるべき業務が溜まりすぎていて不安になる」ということはないでしょうか。この場合、「やるべき業務が多いこと」がストレスの要因=ストレッサーということになります。
この段階で、ストレッサーが「自分にとって害はないもの」と受け止められればストレス反応は起こりません。逆に、ストレッサーが「自分にとって有害なもの」と受け止めた場合には、次のプロセスに進みます。
二次的認知評価
次のプロセスとなる二次的認知評価では、ストレス要因に対しストレスを軽減するためにコントロールできるか?解決できるか?という対処法を検討するプロセスに入ります。
先ほどの例で考えてみましょう。「やるべき業務が多い」というストレス要因に対して、「業務を終わらせる」「周囲の人と業務を分け合う」などの問題解決ができればストレスから解放されます。しかし、対処法が見つからない場合には、ストレスが高まってしまいます。
このように、ストレスの要因となるストレッサーに対しての受け止め方や対処法によって、ストレスの感じ方は全く異なります。ストレスを認知し解決に向けた行動をすること、すなわちコーピングを実施することでストレスを回避したり、軽減したりすることができるのです
。
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コーピングには様々な種類がありますが、近年では主な分類として、ストレスの原因となる問題を解決することに重点を置く「問題焦点型コーピング」、ストレスを感じたときの感情のコントロールに重点を置く「情動焦点型コーピング」の2種類、あるいはストレスから離れ趣味などに没頭する「気晴らし型(ストレス解消型)コーピング」の3種類に分類されると考えられているようです。
直面している問題に対し、自分の努力や周囲の協力を借りて解決や対策をたてる対処行動を指します。ストレス要因そのものの問題解決をすることで、根本的な解決につながりやすいと考えられます。
問題に対してではなく、自分の感情に対して向き合いコントロールする対処行動を指します。例えば、大切な人を亡くしてしまったときなど、問題そのものの解決が難しい場合などに適した方法とも言われています。
いわゆる“ストレス解消法”と言われるような、運動、趣味、リラクゼーションなどで気分転換やリフレッシュする対処行動を指します。
直面している問題に対して、見方を変えて良い方向に考える、一度距離を置くなど認知の仕方を変える対処行動を指します。
上司や同僚、友人や家族など誰かに相談しアドバイスを求める対処行動を指します。
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ここからは、コーピングの具体的な実践方法の例をいくつか紹介します。コーピングの実践イメージを深めることで、自身のストレス耐性を強化するだけでなく、メンバーへのストレスマネジメントにも活用できますので、参考にしてみてください。
「長時間労働がつらい」などのストレス要因がはっきりしている場合には、業務効率をあげる方法を考える、仕事の納期を延長する、業務を複数人で振り分ける、などの直接的な問題解決に取り組むと良いでしょう。
上司や同僚に「自分は困っている」というアラートを出し、周囲に協力を仰ぐこともコーピングの一種です。担当を変えてもらうといった回避行動も広い意味では、問題焦点型コーピングに含まれると考えられます。
また、直接的な問題解決につながらなくても、話を聞いてもらい苦しい状況をわかってもらうだけでも情動焦点型コーピングにつながり、精神的に楽になるということもあります。
「これまでと違う業務を任された」「部署が異動になった」など環境変化によるストレスには、早く業務に慣れるような工夫をするという問題焦点型コーピングのほか、物事の見方を変える認知的再評価型コーピングを試すのもひとつの方法です。
例えば、「この業務を任されたのは自分のこれまでの仕事が評価された結果だ」「部署が異動になったことで新しい経験を積むことができる」など、意識を変化させてポジティブに捉えるようにします。
自主的に意識を変えるだけでなく、周囲の人からそのような前向きな言葉をかけられることで、よりポジティブに問題を受け止めることがしやすいでしょう。
また、意識の転換を習慣づけるために「輪ゴムテクニック」という手法もあります。これは、手首にはめた輪ゴムをはじいて刺激を感じる度に「ネガティブな感情はここで終わり」と自分に言い聞かせることで、ネガティブ→ポジティブへの思考の切り替えを癖づけるというものです。
あくまでも自分なりの“気持ちの切り替えスイッチを作る”ことが目的なので、輪ゴムによる刺激でなくても問題ありません。気持ちのコントロールをしやすい方法で取り入れると良いでしょう。
ストレス社会と言われる現代では、日常的に様々なストレッサーにさらされています。例えば、心理的なストレスを感じていなくても、「忙しくしていて十分な睡眠時間が取れていない」「暑い・寒いと感じる」などといった生理的なもの、物理的なものもストレスの要因となり得ます 。
このような日常的に起こりうるストレスとうまく付き合っていくための方法として「コーピングリスト」が挙げられます。「コーピングリスト」とは、自分のストレス解消法やポジティブな内容を書き出しリスト化したものです。
【リストアップ例】
・好きなもの
・信頼できる人
・気分が晴れること
・自分の良いところ
など
何かストレスを感じたら「コーピングリスト」を開き、「好きなもの」に書き出した音楽を聴く、「信頼できる人」に書いた人に話を聞いてもらう、などの行動に移します。その後、感じていたストレスが実際に軽くなったかを振り返ることで、今後の効果的なコーピングの方法を見つけていくことができるでしょう。
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最後に企業が組織としてメンバーのメンタルヘルスケアとしてコーピングを導入する方法をいくつか紹介します。
メンター制度とは、所属部署の上司ではない先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティー)の相談役となりサポートをする制度です。
メンティーにとっては、実業務の評価への影響を気にせずに、困っていることや仕事の悩みなどのストレスを吐き出しやすい、というのがメンター制度のメリットのひとつです。メンバーの相談しやすい環境づくりの一環として取り入れられると良いでしょう。
1on1とは、上司とメンバーが1対1で行う定期的なミーティングのことです。
ミーティングでは、メンバーが日々の業務の中で感じている課題感や業務経験で感じたこと、今後のキャリアの展望などの話を幅広く聞きます。1on1は、上司がフィードバックをする場ではなくメンバーが話をすることに重きを置いた対話型のコミュニケーションの場となります。
自分の言葉で語り、上司に話を聞いてもらうことで問題点の整理をしやすいほか、メンバーの意識がマイナス方向に向いているときには、前向きな意識への転換を上司が手伝う機会にもなります。
メンバー自身のストレス耐性を向上させるために、メンタルトレーニングができるような研修や講習会を実施するのもおすすめです。メンタルトレーニングは繰り返し学ぶことが効果的なので、インターネット上で学習できる「e-ラーニング」を活用するのもひとつの方法です。
ときには仕事から離れ、昼休みのランチ会など気晴らしになるようなイベントを開催するのも良いでしょう。
仕事以外でコミュニケーションをとる機会を作ることでプライベートの話がしやすく、お互いの距離が近づく良い機会になります。普段の業務中にも相談がしやすくなるため、ストレスが溜まりにくい職場の環境づくりの一助にもなるでしょう。
空調がきいていない、冷暖房が効きすぎているなど、快適に働けないオフィス環境がストレスになる可能性も考えられます。
口頭では言いにくいことも考えられるため、定期的にオフィス環境に関するアンケートを実施するのもおすすめです。現場の声が反映されることで、職場に対する満足感にもつながりますので、メンバーの希望をヒアリングする機会は積極的に設けられると良いですね。
メンタルヘルスケアのため、産業医や専門カウンセラーによる心理カウンセリングが受けられる環境を整えている企業も数多くあります。
コーピングやストレスマネジメントに精通しているカウンセラーとの面談によって、上司やメンバー自身とは違う視点でのアドバイスを受けることができます。定期的にカウンセリングを実施することで、ストレスチェックにも役立ちます。
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この記事では、ストレスへの対処法となるコーピングについて解説をしてきました。ストレスを我慢して解消しないまま溜め込んでしまうと、仕事へのパフォーマンスが低下するだけでなく、心身の健康を損なうリスクがあります。
同じ出来事でもストレスの感じ方には個人差があります。これは、メンバーごとにストレスに対する受け止め方やコーピングスキルが異なるからです。一人ひとりのメンバーに適したストレスマネジメントを行うためには、定期的な対話はもちろん、日常的にメンバーの状況にしっかりと気を配る必要があります。
エンゲージメント改善サービス「wellday」を使うと、チャットツールのテキストデータをもとに、AIがメンバーのストレスレベルをリアルタイムで分析、ストレスレベルをスコア化し週次で可視化します。特に不調を感じているメンバーがいればアラートを拾うことができるため、早期の段階での対策も可能となります。
現場のストレスマネジメントに、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
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