これまで安定した業務成果をあげていたメンバーが、急に仕事に対する意欲や熱意を失ってしまう「燃え尽き症候群」。燃え尽き症候群に陥ると、モチベーションの低下から仕事の質や生産性が落ち、最終的には休職・離職に発展してしまうリスクも考えられます。本人も周囲も「なぜ、突然?」と思ってしまいそうですが、何の問題がなく見えていても、持続的に精神的なストレスを受け続けている可能性は誰にでもあり得るのです。 この記事では、燃え尽き症候群の症状や仕事への影響、そして要因や回復方法などを解説。チームメンバーから燃え尽き症候群を出さないための予防対策、診断の参考となるチェック項目についてもお伝えします。
燃え尽き症候群とは、それまで仕事・学習などに熱心に打ち込んでいた人が、突然意欲を喪失し無気力になってしまうこと。別名として「バーンアウト」または「バーンアウト症候群」「バーンアウトシンドローム」と呼ばれることもあります。
「バーンアウト」という概念は、1970年代に精神心理学者ハーバート・フロイデンバーガーによって提唱されました。当時は、主に顧客と直接コミュニケーションをとるようなサービス業に準じる労働者に多くみられた症例でしたが、現代においては職業・職種を問わず、持続的な職務ストレスから「バーンアウト」すなわち「燃え尽き症候群」に陥る懸念があると考えられています。
ここからは、バーンアウト研究でまとめられたMBI(Maslach Burnout Inventory)マニュアルに記載された3つの定義をもとに、燃え尽き症候群(バーンアウト)にはどのような症状について解説します。
燃え尽き症候群(バーンアウト)の主症状であると考えられるのが「情緒的消耗感」です。
情緒的消耗感とは、「仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態」です。“身体的”な疲労ではなく、“情緒的”と限定されているのは、この消耗感の主な原因が“情緒的な資源を要求されることによる情緒的な資源の枯渇”にあると考えられているためです。
仕事をする中で、人と関わり合い信頼関係を築いていくためには、相手の気持ちを思いやりながら問題解決をしていく場面が数多くあります。
「クライアントにもっといいサービスを提供したい」 「仕事でもっといいパフォーマンスを見せたい」 「今よりも、もっと期待に応えられる自分でありたい」
このように、頑張ろうと努力を重ねれば重ねるほど、日常的に多くの情緒的なエネルギーを消耗してしまうのです。
情緒的消耗感を引き金に起こるのが「脱人格化」と言われる症状で、「クライアントに対する無情で、非人間的な対応」と定義されています。
具体的には、クライアントや同僚など周りの人たちに対して、相手の人格を無視したような思いやりのない態度をとることを指します。
人との関わり合いに伴うストレスを避けるため、書類の整理などの人と関わることがない事務的な仕事を好むようになるケースもあります。
仕事を通じての達成感が低下してしまう症状が、「個人的達成感の低下」です。個人的達成感とは「ヒューマンサービスの職務に関わる有能感、達成感」と定義されています。
情緒的消耗感や脱人格化の症状により仕事の成果が下がってしまうこともあるでしょう。そのことを自覚することで自分に対する有能感や達成感が低下してしまうのです。
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これまでに安定したレベルでの業務成果を挙げてきた人であっても、燃え尽き症候群になる可能性があります。メンバーが燃え尽き症候群になってしまった場合に、仕事においてどのような影響があるのかを整理してみましょう。
仕事への意欲が低下して、これまで「楽しい」と思っていた仕事が「つまらない」と感じるようになります。 業務をこなしても達成感が生まれず、やりがいを感じることができません。また、仕事で関わる人に対してイライラしやすくなり、これまで自然にできていたような周囲への気配りをしたくないと思うようになります。
脱人格化の影響で、クライアントや同僚など周囲の人に対して悪口や愚痴が増えるなど攻撃的な態度をとるようになります。他にも、相手が分かるはずのない専門用語を使って話をしたり、個人名を呼ばなくなったりと、人との距離を置くような行動をとることもあるでしょう。 人によっては、遅刻や欠勤が増えるなど勤怠に影響を及ぼすこともあります。
仕事に対しての有能感を感じられず、強い自己否定の感情を生んでしまう可能性があります。これらの疲弊感は、休職や離職などの行動に結びつきやすいため注意が必要です。
仕事に対して手を抜かず、丁寧に周囲とのコミュニケーションをとっていた人ほど、情緒的な消耗をしてしまう懸念があります。ストレスを溜めこんでしまい、燃え尽き症候群に陥るメンバーを出さないためにも、職場でのストレスを少しでも緩和することが重要です。
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職場のチームから燃え尽き症候群のメンバーを出さないための予防策を考えるため、まずは燃え尽き症候群に陥る要因としてどのようなものがあるかを確認しましょう。
燃え尽き症候群の場合、一般的には「個人的要因」と「環境要因」の2種類の要因があると考えられています。
個人要因としては、性格上の特性や仕事へのスタンス、年齢・経験値などが考えられます。
「他人と深く関わろうとする姿勢」を持って熱心に仕事を続けてきた人は、情緒的な消耗をしやすいと考えられます。また、多くの仕事をこなそうとひたむきに頑張るタイプや完璧にやり遂げようとする完璧主義なタイプは、自分の理想に届かないことが精神的な負担となる可能性があります。
また、経験値が低くストレスへの対処法を知らない若い世代だと、仕事への期待と現実のギャップから悩んでしまうケースもあるでしょう。
環境要因としては、長時間勤務や重たいノルマや業務量、評価が実感できないことなどによる職務ストレスが考えられます。
勤務時間や業務量といった物量の多さだけでなく、自らの意志ではなく強制的に業務を強いられる環境や、他人と深く関わるような仕事内容の場合、より強いストレスを感じてしまいます。また、仕事とプライベートの境界があまりなく、生活が仕事中心になっている場合にも要注意です。
そして、モチベーション高く仕事を継続していくにあたっては、自分の仕事に対しての正当な評価を実感できることがとても大切です。納得感のある評価を得られなかったり、チーム内の役割分担に公平さが欠けていたりすると、どんなに頑張っても報われないという気持ちが生まれてしまいます。
燃え尽き症候群の要因となるような過剰なストレスをチームメンバーに与えないために、以下のような点に留意した職場づくりを心掛けましょう。
・長時間労働やノルマの達成を強制しないこと
・ひとりに負担が偏らないよう業務を分担すること
・曖昧な役割分担をしないこと
・個人の経験に頼りすぎずチームでナレッジを共有すること
・公平性のある評価を本人に正しく伝えること
・ワークライフバランスへの取り組みをすること
・メンバーの不調に気が付きやすい職場環境を整えること
チームから燃え尽き症候群に陥るメンバーを出さないためには、ストレスを抱えさせないための工夫やメンバーの変化の兆候にいち早く気が付き精神的なサポートをすることが大切なポイントとなります。
特に、これまで安定した業務成果をあげていたメンバーの不調には、気が付きにくいということもあるでしょう。周囲が変化を感じ始めてから声をかけるのではなく、その前に不調があるメンバーのアラートを拾えるような仕組みづくりと関係性の構築に努めましょう。
例えば、SlackやTeamsといったチャットツールのテキストデータから従業員の働きがいとストレスレベルをリアルタイムに分析できる「wellday」のようなAIツールを導入するのもひとつの方法です。
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Bernier (1998)の研究・分析結果によると、燃え尽き症候群からの回復過程として、以下の6つの段階があることが提唱されています。
まず、自身が感じている心身の不調や意欲の低下が単なる疲労からきているのではなく、心理的な要素が関係していることを自覚することが第一段階です。
次に、仕事に関する思いを断ち切ります。仕事をしながらだと、どうしても仕事に対して心理的な距離を置くことが難しいため、仕事を休むという物理的な職場との距離を置くことで思いを断ち切るケースが多いようです。
仕事と距離をとったうえで、ゆっくりと休息をとり健康を回復します。たっぷり睡眠をとる、心をリラックスことで心身ともに健全な状態を取り戻します。
充分な休息をとり心身ともに健康を取り戻すと、これまでの極端に仕事の比重が高かった生活を振り返り、改めて自分の生活の中で大切にしたいことなどの価値観を問い直す段階に入ります。
個人の内面に向いていた気持ちが外の世界=社会との関わりに向かっていきます。第4段階で気が付いた、新しい価値観にあった仕事を求める時期と言われています。
これまでの自分のライフスタイルを断ち切り、新しいライフスタイルへと変化するのが最後の段階です。
燃え尽き症候群に陥ってしまった人でも、段階を追った心の変化を経て職場復帰・社会復帰を遂げることは可能であるということです。
もし、チームメンバーに燃え尽き症候群の兆候が見られたら、どのような対処を心掛ければよいのでしょうか?
燃え尽き症候群と思われる症状があるメンバーは、ひとりでストレスを抱え込んでしまっているのかもしれません。これまで頑張ってきたこと、今気になっていることなど、本人に関する話をしやすい環境を用意できると良いでしょう。
例えば、「メンター制度」を導入し、所属する部署以外の先輩社員から助言をもらう機会を作るのもおすすめです。
メンター制度では、後輩社員(メンティー)が、自分のキャリア形成に関することなどを、他部署の先輩社員(メンター)に相談することができます。メンターは、直属の上司による業務上の指導とは別に、メンティーの成長を側面から支援する役割を担います。
評価を気にして直属の上司や同じ部署の先輩社員には話しづらいことも、業務上では関わりのない他部署の先輩であるメンターには、気兼ねなく話ができることもあります。
前述のとおり、燃え尽き症候群に陥る人は、ひたむきに一生懸命に仕事を頑張るタイプや完璧主義な人が多い傾向にあります。そのようなタイプの場合、罪悪感や責任感から、無理をしてでも仕事をこなそうとして休みを拒むケースも大いに考えられます。
「体調が辛いときなどは気にせずに休んでよい」ということを日頃から伝え、組織として「ワークライフバランスを重視する」という雰囲気づくりをするなどの日常的なケアはもちろん、休みを取りやすい職場づくりを進めるようにしましょう。
休みやすい職場にするためには、誰かが休んでも仕事に支障がでないような環境を整える必要があります。属人的になっている仕事を他の人もできるようにマニュアル化することや、メンバーの仕事内容や仕事量、スケジュールをチーム内で共有して代理対応をしやすくすることなどが有効です。
燃え尽き症候群の回復のためには、充分な休息をとることが大切です。もし、メンバーにバーンアウトの兆候が見られた場合には、時間が経ち重症化してしまうほどに回復が遅れてしまうリスクも鑑みて、休職も視野に入れながら、まずは心身ともに休ませることを意識します。
本人から職場環境を変えるため部署を変わりたいという希望があれば、必要に応じて上司や総務・人事などの関係部署と連携し、部署変更など会社としてできることがあるかを検討します。
「メンバーのストレスを和らげる方法は何か」を一番大事なこととして、対処法を考えましょう。
最後に、燃え尽き症候群の診断の参考として「日本版バーンアウト尺度」のチェック表を紹介します。
燃え尽き症候群の症状は、うつ病の症状とよく似ているとも言われています。また、状態が悪化すると、うつ病の発症や適応障害につながってしまう可能性もゼロではありません。
安易に「病気ではない」と自己診断をするのではなく、少しでも不安があれば、社内の産業医など医師に相談するようにしましょう。
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