360度評価は、直属の上司から評価を下される評価制度と異なり、複数の社員から評価を得られる制度のことを指します。360度評価は多面的な評価で社員の行動改善を促進できるというメリットがある一方で、社員同士の人間関係など心理的に作用される要素があるため、十分に実施されない場合も多々あるようです。
本記事では360度評価の概要に加えて、360度評価が上手く実施されないケースとその要素について見ていきます。また、360度評価における効果的な評価項目とフリーコメントの例文もご紹介します。
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360度評価とは、上司だけでなく複数の立場で関わりのある人々が一人の社員の評価を行う制度のことを指します。
上司から一方的に評価される一般的な評価制度とは異なり、同僚、部下からの評価も得られることから多面評価とも呼ばれています。さらに、360度評価には社員が自分自身の評価を行う項目もあり、自身の評価と他者からの評価を比較できることも特徴として挙げられます。
360度評価が注目を集めている背景としては人材不足と新型コロナウイルスによる働き方の変容があります。 近年の人材の流動化や労働人口の減少により人材不足が起きている中、管理職が社員の全てを把握して適切に人事評価を行うことが難しくなってきています。
さらに新型コロナウイルスの影響に伴ってテレワークが普及し部下と上司の対面交流の機会が減ったことで的確な人事評価がさらに難しくなっていることが背景にあるのです。このことから、より多面的な評価が可能である360度評価の導入が拡大することが予想されています。
360度評価は、上司からの評価だけでなく複数人から評価を受ける制度であることが分かりました。では、360度評価を行う目的について見ていきます。
まず、360度評価は社員をより客観的で公平に評価することを目的としています。
特定の上司からの評価だけでは一点的な視点であるが故に評価に主観的要素が強く含まれバイアスがかかってしまう場合があります。一方で、360度評価だと複数の視点からの評価を得られるためより客観的で公平であると言えます。さらに、被評価者は1人よりも複数人から評価を得ることで評価を納得して受け入れられるでしょう。
また、360度評価は人材育成の役割も果たします。これは被評価者が自身の良い点と悪い点を多数の人から評価してもらうことで、改善点が明確に分かるためです。
360度評価を通して、被評価者の社員だけでなく上司も被評家者の今まで把握できていなかったような強みを理解することができます。これによって、上司は被評価者の強みを引き出すための教育を行えるようになるため能力開発にもつながります。
360度評価は一見すると上司から部下に対して行われる評価制度よりも効果的な制度のように見えます。しかし一方で、実施してもこれらの強みが活かされずに失敗に終わるケースもあるようです。
360度評価の目的を満たせずに失敗するケースとして、具体的に以下のようなケースが見られます。
360度評価では社員全員が評価を行う必要があるため、中には評価経験の少ない社員が適切な評価方法や評価目的を認識しないまま評価してしまう事態が起こります。
本来評価はできるだけ客観的であることが前提ですが、評価者がこの前提を把握できていないと主観的で論拠の薄い評価を行ってしまうことに繋がりかねません。結果として、本来被評価者の行動を改善するためのフィードバックがただ不満をぶつけたものになってしまう可能性があります。
このようなフィードバックでは今後の行動改善のための動機付けがなされないため正当な評価として機能せず、被評価者が納得して行動改善を行うことができません。
特に部下から上司へ評価を実施する際に起こりがちなのが、率直な評価をつけることで自分への評価が落ちてしまうかもしれないという不安から率直な評価を与えられないということです。
また、悪い評価を下し合わないように社員同士で口裏合わせを行うことも起こりかねません。このような状態では正しい評価にはならないので360度評価の実施が無駄になります。
360度評価が失敗するケースの一つとして、自身への率直な評価を受けて社員が落ち込み、モチベーションが低下してしまう場合が挙げられます。これは社員が、360度評価が自身の行動を改善するためのものだと把握しきれていない際や、評価基準が設けられずに主観的で納得のいかない評価がなされた際に起こる可能性があります。
さらには、社員が打たれ弱い性質を持っているとこのように自身の評価に対してネガティブな感情を持ち、モチベーションが低下することがあるでしょう。打たれ弱さを改善する思考法などについてはこちらの記事をご参照ください。
以上の3つが360度評価の目的を満たせずに失敗する主なケースです。
では、360度評価を失敗させてしまう要因としては何があるのでしょうか?ここからはこれらの失敗の要因と、効果的な実施のために注意するべきポイントを見ていきます。
360度評価が上手く実施されない要因として以下の4つが挙げられます。
それぞれの要因と、注意するべきポイントを見ていきましょう。
360度評価では、管理職の社員だけでなく人事評価経験のない一般社員も評価を行う必要があります。従って、評価基準を設けないまま人事評価の未経験者が社員の評価を行なってしまうと、主観が入った定性的な評価がなされる可能性があります。人事評価未経験の社員が公平な評価を行うためには、一定のガイドラインを作成する必要があります。
組織内でチームのメンバーが不安や恐怖を感じることなく発言・行動できる環境が担保されていない状況だと、評価者も悪い評価をつけることで自身の評価に影響が出る可能性を危惧して率直なフィードバックを与えられません。また、被評価者も自身の能力が否定されるのではないかという不安から、前述の通り社員同士で悪い評価を受けないように口裏合わせを行う可能性もあります。
これでは適切な評価ができなくなり、360度評価として機能しているとは言い難いでしょう。 360度評価で率直なフィードバックを与え、受けられるようにするためには日頃から心理的安全性を担保する必要があります。加えて、360度評価が社員の待遇を決定する「人事考課」に影響のあるものではなく、社員の意識や行動を改善することが目的の「人事評価」である、と社員に認識させることも率直なフィードバックを生み出すのに有効です。
前述した通り、360度評価の「人材育成」という主な目的が周知されていないと、評価者から率直なフィードバックは得られない可能性があります。また、「なぜ人事ではないのに社員の評価をしなければいけないのか」と評価者が適当に回答することも起こりかねません。そして被評価者自身も、360度評価が自身の客観的評価から行動を改善することを目的としたものであることを認識できていないと、複数の社員から単に批評されているだけといった状況に陥ってしまいます。
こうした状況を回避するためにも、360度評価が社員の意識や行動を改善することを目的とした人材育成の一環であることを事前に通知する必要があります。
360度評価が上手くいかないケースとして、社員が自身への率直なフィードバックに落ち込んでしまいモチベーション低下につながるということがあります。
複数の社員からの自身の評価結果を把握することは自身の長所だけでなく短所も強制的に再認識させられるため、社員が大きくショックを受け無気力となってしまう場合もあるでしょう。評価結果をネガティブに捉えてしまうと、意識や行動を改善することができずに360度評価を活用できていない状況になります。
社員がそういった状況に陥らないようにするためには、評価を受けて意識や行動改善を起こすまでの過程を上司がフォローすることが重要です。具体的には面談などを通して、評価をいかに次の行動へ活かすかについて考えさせて改善を促すことで360度評価の「人材育成」の効果を得ることができるでしょう。
以上のことから、360度評価を行う際は以下の点に注意する必要があることが分かります。
ここまでで、360度評価を適切に行う環境の整え方と、実施後の流れがわかりました。
一般的に360度評価には、数字で回答する選択形式の設問と、より具体的なフィードバックが記述できるフリーコメント式の設問が設けられます。
ここからは実際に360度評価で使用する評価項目の例と、自由記述形式で社員を評価するフリーコメントの例をご紹介します。
360度評価は全役職の社員が多方面から評価される制度であることが分かりました。評価を行う際は評価される社員の役職によって重視される能力が異なるので、評価項目も被評価者の役職に伴ったものにする必要があるでしょう。ここでは、幹部クラスに所属する社員と一般社員に分けてそれぞれの評価基準となる評価項目例をご紹介します。
幹部社員は一般的に、自身が業務を遂行するだけでなく、一般社員に業務を指示したりスムーズに業務を進めるために組織のマネジメントを求められる役職です。
そんな役職の幹部社員に求められる能力には、業務遂行力だけでなく、部下との人間関係構築力や主導力が含まれます。よって、360度評価の評価項目もそれに沿った評価基準にする必要があります。 以下のような評価項目が幹部社員の評価に適していると言えるでしょう。
業務遂行力
責任力・判断力・課題発見力
人間関係構築力
他者理解・指導力・傾聴力
チームビルディング力
人材活用力・動機付け・目標設定力・統率力
一般社員は、組織の形成や人材活用などの管理能力よりも上司から指示された業務を確実に遂行する能力が主に求められる能力であると言えるでしょう。従って、360度評価の評価項目は以下の要素を取り入れると良いかもしれません。
業務遂行力
責任力・行動力・課題解決力
取り組み姿勢
挑戦心・粘り強さ・自主性
実際にアイリス・オーヤマ株式会社で実施されている360度評価では、ここでご紹介したように幹部社員と一般社員で評価項目が分けられているそうです。ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
360度評価の項目には選択形式のもの以外に、自由記述形式としてフリーコメント欄が設けられている場合があります。この形式は、被評価者をより柔軟で多様に表現できるというメリットがある一方で、自由記述で特定の型が無いため何に注意して記述すれば良いか分からないという方が多くいるかと思われます。ここではフリーコメントを記述する際のポイントと例文をご紹介します。
評価すべき点と改善余地のある点をバランスよく指摘する
まずは、被評価者の良い点と悪い点をバランスよく記述することを意識しましょう。悪い点に偏ることなく良い点も記述することで、被評価者のモチベーション低下を防ぐことにも繋がります。悪い点が無い際には良い点を具体的に記述しながら、今後の期待なども記述すると社員のモチベーション向上に繋げられるでしょう。
具体的にコメントを記述する
また、フリーコメントではできるだけ具体的にコメントすることがポイントです。特定の評価に至った背景や考えが把握できないと被評価者も納得して評価を受け入れることができません。評価に至ったエピソードなどを挙げて論理的に記載すると評価への客観性がさらに増すため、社員が納得して行動の改善に繋げられます。
(実際のエピソード)で(特定の能力)を発揮していた。そのため、(成果)に繋げることができた。
(実際のエピソード)で(特定の能力)を発揮し、(成果)を生み出すことに貢献していたが、(特定の能力)を十分に発揮できておらず(残課題)があった。そのため、(特定の能力)を改善すると更に○○できるようになると思う。
(実際のエピソード)から、(特定の能力)を発揮している。今後も継続して活躍してくれると良いと感じている。
ここまでで、360度評価の目的と失敗例、評価項目の例をご紹介しました。一般的な評価方法とは異なり、社員同士の人間関係が関係したり心理作用が働いたりするため効果的に実施できない事態に陥る可能性のある評価方法です。しかし、前述したようにいくつかのポイントを抑えて適切に実施すれば以下のメリットが期待できます。
360度評価を実施するメリットとして、社員が主体的に自身の意識や行動を改善できるようになることが挙げられます。
なぜ社員が主体的に意識や行動を改善する効果があるのかというと、まず、360度評価は被評価者も自分自身の評価を行うため、客観的に自分自身の良い点と悪い点を把握できるからです。一般的な上司から評価を受ける制度では、受け身で評価を受けますが、360度評価で自身を振り返る機会が与えられることは大きな特徴の一つであると言えます。そして自分で振り返ることによってより主体的な行動改善が期待できるというメリットがあるのです。
また、自分自身だけでなく複数の社員から多面的な評価を受けるため、社員の自分自身に対する評価の納得感が増すというメリットもあります。自分自身に向けられる評価は多少の違いはあれど、ほとんど似通った評価になることがあるかと思われます。複数人から、似たような評価を受け取ることで自身の能力への自己認識が強まります。そこで改めて、自身の強みと弱みを納得して把握することで次の意識・行動改善に繋げられるのです。
360度評価の2つ目のメリットは、被評価者が納得できる適切な評価を受けることでエンゲージメント向上が期待できるということにあります。
これは、被評価者が上司以外の複数の社員から多角的なフィードバックを得られるため、自身でも把握できていなかった能力、強みや弱みなどを知ることができるからです。
社員が自身の潜在的な能力や強みだけでなく、弱みを把握することで、新しい知識や能力の取得可能性に気づくことがあるでしょう。
高いエンゲージメントは、自身の特性を踏まえて成長のために行動している状態で発揮されるものです。360度評価を実施して被評価者のエンゲージメントを向上させるために重要なことは、上司が被評価者の行動改善のためのフォローを行うことです。
これは、評価実施後に上司のフォローが得られないと社員が行動改善までに辿り着けず自身の能力を把握するだけで終わってしまう可能性があるためです。
ここでしっかりとアフターフォローを行い被評価者の次の行動改善を促すことでエンゲージメントを向上させられるでしょう。
ここまでで、360度評価のメリットを説明しました。
これらのメリットを引き出すためには、2章でご紹介した360度評価を実施するポイントを抑えておく必要があることが分かります。360度評価は一般的な評価制度と比較して客観的であるため被評価者の納得感を増して人材育成に役立てられるという利点があります。ぜひ実施ポイントに注意しながら効果的に実施してみてください。
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評価制度を行った後に気になる点として、「本当に社員のエンゲージメント向上に貢献できたのか?」ということが挙げられるでしょう。
360度評価を行った後に社員が意識・行動を改善したと主観的に判断することは可能ですが、見た目だけでは従業員の本当のエンゲージメント状態は分かりません。さらに360度評価が上手くいかないと、自身の評価に傷つきエンゲージメントが低下する恐れもあります。
社員のエンゲージメント低下は業務効率の低下に繋がり、急に休職または退職することになったという事態に繋がりかねません。そこで、360度評価の効果測定を行い、従業員のエンゲージメントにどのように影響を与えたのかを把握できるツールを活用するのがおすすめです。
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本記事では、360度評価を失敗させないためのポイントについて解説しました。
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