「2024年問題という言葉をよく耳にするけど、どのような内容なのか?」
「自社と関係があるのだろうか?」
このように思う、管理職の方も多いのではないでしょうか?
この記事では、2024年問題と働き方改革とのつながりや、物流業界に及ぼす影響と対策について解説します。物流業界以外でも参考となる対策がありますので、ぜひ最後までご覧ください。
政府の「働き方改革関連法案」により時間外労働の規制が行われ、大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行されました。例外として、自動車運転業界や建設業界、医師などについては上限規制開始時期が猶予されていましたが、これらの業界にも適用されることになります。
猶予されていた物流業界において、2024年4月1日より、残業時間が960時間に制限されることで発生する諸問題が、「物流業界における2024年問題」です。他業界ではすでに法案が施行され、多くの企業が人件費増加の課題に直面しているのですが、物流業界も今後この課題に直面することになります。
残業時間の上限が年間で960時間なので、1か月では80時間になります。月の労働日数を22日とした場合、1日の残業時間の上限は3.6時間です。
2021年の厚生労働省によるドライバーの時間外労働時間の調査では、通常期では「2時間以上3時間未満」が22.1%と最も多いので、一見問題ないように思えます。しかし、繁忙期では「3時間以上4時間未満」が13.4%、「4時間以上5時間未満」が5.6%、「5時間以上」が7.2%となり、残業3時間以上が26.2%となっています。
【出典】厚生労働省「図表75・1日の時間外労働時間別の自動車運転者数(通常期)」「図表76・1日の時間外労働時間別の自動車運転者数(繁忙期)」
このことから、お中元の時期や年末、年度末などの繁忙期では、残業時間が上限の月80時間を超えてしまうことが問題視されているのです。
政府の働き方改革関連法案によって、時間外労働時間に上限が設けられました。違反すると6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される場合もあります。
ここでは、物流業界や他業界に影響のある働き方改革関連法案について解説します。
物流業界にとって一番影響が大きいのが、時間外労働の上限規制です。
これまでは「建設業」、「自動車運転の業務」、「医師」、「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」は上限規制が5年間猶予されていました。しかし、2024年4月1日以降は猶予期間が終了します。
猶予期間中と猶予期間以降を整理すると、以下の通りです。
自動車運転の業務では、時間外労働時間の上限は労使間で36協定が締結された場合、年間で960時間となります。しかし先述通り、繁忙期などを踏まえると上限に収められない企業が出てくることが予想されています。
月60時間超の時間外労働への割増賃金が引き上げられたことも、物流業界に影響する点です。これまで月60時間を超える残業の割増賃金率は、大企業が50%、中小企業は25%でした。法改正後は、中小企業も50%となり2023年4月1日から施行されます。
割増賃金の種類と割増率について整理すると、以下の通りです。
割増賃金の上昇で人件費の大幅な増加が予想され、上記通り月60時間を超える残業にかかる割増率50%以上は、すべての中小企業に適用されます。人材不足から多能工な働き方が求められる中小企業では、人件費の増加が現実となってきているのです。
働き方改革関連法案では、「勤務間インターバル制度」の導入が、事業主の努力義務になりました。
勤務間インターバル制度とは、終業時間から次の就業時間までの期間に、一定以上の期間を確保する取り組みのことです。
物流業界における自動車運転手は、これまでインターバル期間が「8時間以上」の確保が必要とされていました。2024年からは休息期間が「9時間以上」が義務、「11時間以上」が努力義務にするよう議論され始めました。
安全運転のためにもドライバーの健康状態への配慮は必要ですが、雇用する企業からすると、シフトが組みにくい状況が発生しています。
大企業や中小企業で適用されている「同一労働・同一賃金」について、2024年4月1日から物流業界でも適用されます。同一労働・同一賃金とは、正社員や非正規社員などの雇用形態に関係なく、同じ仕事に従事している者に対して同一の賃金を支払うといった考えです。
同一労働・同一賃金で非正社員の待遇改善を図るには、企業は賃金アップが必要になります。また同一労働・同一賃金の対象は、基本給や各種手当以外にも、福利厚生や教育訓練まで含まれますので、従来よりも費用負担は増加する傾向です。
繁忙期と閑散期で従業員を変動化させる必要から非正規社員を雇うケースが多い物流業界では、同一労働・同一賃金は人件費の上昇を招いてしまいます。また物流業界以外でも、非正社員の比率が高い以下の業種では、同様に人件費の負担増加は避けられません。
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2024年問題によって、物流業界ではどのような影響が出てくるのでしょうか?ここでは主に予想される3つの影響について見ていきます。
2024年問題で予想される影響の1つめが、物流会社の収益悪化です。
運送業界は「労働集約型産業」のため、ドライバーの稼働時間と企業の売上は比例する傾向にあります。時間外労働の規制によるドライバーの労働時間減少は、企業の売上減少につながってしまう恐れがあるのです。
例えば企業が利益を出すためには、10人のドライバーで年間約35,000時間の稼働時間が必要だとします。35,000時間の労働時間を確保するためには、ドライバー1人あたり1日平均で13時間働く計算になります。しかし残業時間の制限で、1日あたりのドライバーの労働時間は1日平均11.6時間となるので、1.4時間足りなくなってしまいます。
ドライバー1人あたりの不足時間1.4時間X10人X22日/月X12か月/年=3,696時間
売上を減少させることなく年間約3,700時間のマイナスを埋めるには、新たにドライバーを雇わなければいけなくなります。同じ売上を保つのにドライバーの人数を増やせば、人件費だけが増え企業の収益悪化につながってしまいます。
2021年3月に発表された、公益社団法人の全日本トラック協会の調査では、黒字事業者の推移が明らかになりました。
・貨物運送業界における黒字事業者の割合として、営業利益段階の黒字事業者は37%と、前年比で17ポイント悪化
・経常利益段階の黒字事業者は45%と、前年比で19ポイント悪化
【出典】公益社団法人全日本トラック協会「経営分析報告書(概要版)
コロナでヒトやモノの流れが止まったことや、原油高による燃料代高騰などが原因で、すでに運送業界を取り巻く経営環境は厳しくなっています。この状況に追い打ちをかけるように2024年問題が浮上しているのです。そしてこの影響は、コロナで打撃を受けたサービス業などではすでに始まっていると言われています。
2024年問題で予想される影響の2つめが、ドライバーの収入減少と離職の増加です。 勤務する会社の業績が悪化すると、当然ドライバー自身の収入も減ってしまいます。
1日3.6時間以上残業させられず、更に2.7時間を超えればこれまでの倍の残業代を支払わなければいけない企業にとって、時間外労働抑制に努めるのは自然な流れだと言えます。
割を食うのが、これまでの時間外手当がもらえなくなるドライバーです。基本給アップでドライバーの収入を確保する企業もありますが、先述通り経営環境が悪化する一方の運送業界では、レアなケースだと言えるでしょう。
このように収入減少が予想される運送業界では、将来の生計に不安を抱いてしまうことが原因での離職増加が、予想されているのです。
2024年問題で予想される影響の3つめが、物流コストの上昇です。
経営環境が厳しさを増す物流会社としては、収益低下を補うためには運賃の値上げに踏み切るしかないためです。
2021年に経済産業省が、物流コストについての調査を発表しました。
道路貨物輸送サービス価格は、2010年代後半にバブル期(1990年代の規制緩和以前)の水準を超え、過去最高
特に、宅配便の価格の急騰が顕著
2024年問題を含め、物流コストにはさまざまな上昇要因が見受けられます。需要サイドによる物流コスト上昇の理由は、以下の通りです。
ECの拡大による宅急便の急増
他品種・小ロット輸送の増加による、トラック積載効率の低下
供給サイドによる物流コスト上昇の理由は、以下の通りです。
規制緩和(1990年、2003年)による競争激化の結果、ドライバーの労働環境が悪化した。2000年代後半以降、ドライバーの数は急減、2027年には27万人が不足し、2030年には物流需要の約36%が運べなくなるとの試算もある
少子高齢化による構造的なドライバー不足は、容易に解消できない。特に長距離輸送は中型・大型免許のハードルがある上拘束時間が長いため、若者が敬遠。2024年度の時間外労働規制は、さらに供給を制約する
【出典】経済産業省「物流危機とフォジカルインターネット」
物流コスト上昇は、あらゆる企業へも影響を及ぼします。1979年の発売開始から一貫して1本10円で販売されてきた駄菓子「うまい棒」が、2022年4月から12円に値上げされるのがメディアで話題になりました。値上げの原因は、原材料や包装資材の高騰に加え、物流費の上昇だと言われています。
このように物流コストの上昇は、さまざまな食品や日用品にも影響が出ているのです。
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2024年問題は物流業界のみですが、他業界は同様のことがすでに起きています。この章でお伝えする対策は、他の業界でも活用できるる有効な4つの対策になります。それぞれについて、見ていきましょう。
働き方改革に対応するには、勤怠管理の強化が必要です。そのためには、勤怠管理システムの導入が欠かせません。勤怠管理は、時間外労働の上限規制や賃金に直結する重要な業務のためです。
収益改善のため、勤怠管理で取り入れる方法としては、以下が挙げられます。
●デジタコ(運行管理システム)と勤怠管理システムをデータ連携することで、ドライバーの乗務実態を把握する
●スマホを活用して、遠隔地のドライバーが乗務開始時間や終了時間、休憩時間の記録をデジタコシステム、勤怠システムに連携させる
●担当者を属人化させずに勤怠管理システムを浸透させるために、運送業界に知見のあるベンダーが開発したシステムを導入する
●残業や有休申請を、勤怠管理システム上で申請できるようにして、特定のユーザー(管理職)のみが承認する
●残業時間の上限時間を元にアラートを設定して、注意喚起をうながす
これらのシステムを導入し、従業員の勤務状況を正確に把握することが求められます。そのためには、従業員の残業実態と残業する理由を把握し、業務が特定の部署やメンバーに偏っていないか検証しなければいけません。そのうえで、業務配分の調整が必要になってきます。
勤怠管理を強化するのと並行して、労働環境改善への整備も欠かせません。社内でできる労働環境の整備としては、以下が挙げられます。
●経営基盤強化による、ドライバーの処遇改善(賃金、給与体系の見直しや年次有給休暇取得の推進)
●コンプライアンス経営による従業員のワークエンゲージメント向上
●多様な人材の確保と育成(女性や高齢者でも働きやすい職場づくり。若年労働力確保に向けた取り組み)
上記のように労働環境を整備することで、2024年問題による懸念を払拭させていきます。大切なことは、組織内で働き方改革に合わせて価値観をアップデートさせることです。「有給休暇は取りづらい」、「みんな残業しているから自分も残業するには当たりまえ」と言った考えは時代にそぐわないと認識すべきです。
M&Aも2024年問題に対して、有効策となり得ます。M&Aで他の企業と一緒になる事で、ドライバーを確保しやすくなるからです。
また物流業界は現在再編期にあり、各企業が環境の変化に対応するための戦略を立て施策を打ち出しています。環境の変化で今後予測されるのが、ECサイト購入の増加による、物流システムの複雑化です。
物流システムの複雑化に対応するために、ITに知見のある企業とM&Aを行えば、以下のメリットを得ることができます。
IT化に費やす時間が買える
システムに対応するIT人材を確保できる
自社のみで厳しい経営環境を脱するといった固定観念は、経営の足かせとなり従業員の雇用を守れなくなる恐れもあります。物流業界含めた多くの中小企業が厳しい経営環境を脱するには、M&Aは合理的な手法と言えるでしょう。
DXの推進で業務を効率化させることで、労働時間短縮が図れます。デジタルテクノロジーを活用することで、業務の「ムリ・ムラ・ムダ」をなくせるからです。
DX推進の取り組みとしては、具体的には以下が挙げられます。
●書面を電子化することで手続きの簡素化を図る
●ロボットなどの新技術の導入や、自動運転実現に向けた取り組みへの協力
●物流データ基盤の構築
●DX推進のため必要なスキルの明確化と学習機会の提供
●RPA(ソフトウェアに組み込まれたロボットが業務を代行する仕組み)による定期的作業の自動化
●場所や時間を選ばないオンラインツール(会議ツールや電子承認ツール)を利用してテレワークを浸透させる
DX化による業務効率については、アナログな手法が多い運送業界やサービス業界などでは改善の余地は多く残されていると言えます。積極的に取り入れることで、これまでよりも短い労働時間で同じ成果を得られるようになり従業員のワークエンゲージメントも高まってくるでしょう。
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今回の記事では、物流業界における2024年問題について解説しました。
時間外労働の上限を規制する働き方改革関連法案によって、物流業界を含む多くの業界でさらに厳しい経営環境に陥る企業が増えると予測されます。このような働き方改革による人件費の増加は、物流業界だけの課題ではないと言えるでしょう。
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